先週末のイギリスの音楽ニュースは、グラストンベリー・フェスティヴァルの話題一色だった。デイヴ・グロールの骨折によるフー・ファイターズのキャンセルというアクシデントが直前にありながらも、ザ・リバティーンズがシークレットで出演したり、パティ・スミスのステージにダライ・ラマが登場したり、カニエ・ウェストのステージに観客が乱入して一時中断になったり、初日には多くのバンドがグラストンベリーお約束の豪雨の洗礼を受けたりと、グラストンベリーは例年に違わず、いや、例年以上の盛り上がりを記録した年となったようだ。
これぞリバティーンズ!! 日本では半永久的に観ることが叶わない(涙)どしゃめしゃなのに最高なステージ。
The Libertines - Don't Look Back Into The Sun
めちゃくちゃ雨に降られているけどめちゃくちゃ楽しそうなCATB。
Catfish and the Bottlemen - Pacifier
今年の裏ベスト・アクトの呼び声も高いザ・エックス・エックスのジェイミーXXのステージ。
Jamie xx - Loud Places
ダライ・ラマの80歳の誕生日を祝うパティ・スミスと数万のオーディエンス。
Dalai Lama - 80th birthday speech
サマソニが楽しみすぎるファレル・ウィリアムスは新曲“Freedom”を披露。
Pharrell Williams - Freedom
フローレンス・アンド・ザ・マシーン、カニエ・ウェスト、ザ・フーがヘッドライナーを務めた今年のグラストンベリーだが、発表直後から大きな注目を集めたアクトといえば、やはり土曜日のヘッドライナーだったカニエ・ウェストだろう。フェス開催前から出演に反対する署名運動が起きたり、フェスを中継したBBCがカニエのMCやラップにおける「放送に不適切な言葉」を字幕化するので四苦八苦したりと、お騒がせな側面も多々あったカニエだが、結果的に圧巻のパフォーマンスでノイズをねじ伏せた格好だ。
Kanye West - All Day
思えば去年のグラストンベリーでもメタリカに対して「グラストンベリーのヘッドライナーにメタル・バンドは相応しいか論争」が起きたし、最も有名なところでは2008年のジェイ・Zのヘッドライナーに対してノエル・ギャラガーが「グラストンベリーのギター・ロックの伝統を破壊する」と非難し物議を醸した。メタルだからダメとかヒップホップだからダメとか、日本でロック・フェスを楽しんでいる我々からしたら恐ろしく保守的に思えるグラストンベリーのヘッドライナー問題だが、アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーみたいな若手を象徴する人まで「メタリカは好きだけどグラストのヘッドライナーにはどうかと思う」と言っていたくらい、これは頭の固い一部の意見というよりも、グラストンベリーにまつわる「思想」として英国に根付いているものだ。
もう一方のUKフェスの代表格であるレディング・フェスなどに比べてみても、グラストンベリーではオーディエンス間でこうした論議が起こる傾向が強いように思う。ちなみにグラストンベリーとレディングの二大UKフェスの関係を日本に置き換えると、キャンプ&アウトドアのカルチャーが強いグラストンベリーがフジロックに、2都市開催で利便性の高い都市型フェスであるレディングがサマーソニックに近いと言える。いずれにしても、今年で45周年を迎えるグラストンベリーは世界でも1、2を争う老舗フェスであり、そこはロック・ファンの理想によって聖地化された場所ということなのだろう。
ちなみに今年のカニエはクイーンの“ボヘミアン・ラプソディ”のカヴァーを披露、2008年のジェイ・Zはオアシスの“ワンダーウォール”を披露と、ヒップホップ・アクトがグラストンベリーのヘッドライナーを務める際は「英国」「ロック」に対するアンサー・ソング的なカヴァーをやるのが恒例になっているのも興味深い。
では、グラストンベリーの理想のヘッドライナーとは何なのか?下記のリストは英インディペンデント紙が今年発表した「過去20年のグラストンベリーのベスト・ヘッドライナー」10選だ。インディペンデントは音楽誌ではなく一般紙なので、よりニュートラルなセレクトになっていると言える。
Pulp, 1995
Oasis, 1995
Radiohead, 1997
The Prodigy, 1997
Coldplay, 2005
Jay Z, 2008
Metallica, 2014
Blur, 2009
Bruce Springsteen and the E Street Band, 2009
The Rolling Stones, 2013
こう見ると90年代後半と2000年代以降ではっきり傾向の差が見て取れる。パルプ、オアシス、レディオヘッドという自国産の若手ギター・ロック・バンドが隆盛を極めていた90年代後半から、US勢、ロック・レジェンド、ヒップホップ、メタルと多様化していった2000年代以降へ、グラストンベリーのヘッドライナーの理想形はこの10年で大きく拡散している。出演アクトにおける「グラストンベリーらしさ」が問われなくなる時代も、いつか訪れるだろうか。(粉川しの)