【コラム】天才バンド、メジャーへ! って、ところで何故「天才」なのか、デビュー作で復習しよう!

【コラム】天才バンド、メジャーへ! って、ところで何故「天才」なのか、デビュー作で復習しよう!

なにしろ「天才バンド」である。この不遜にして自信たっぷりなバンド名。しかし、初めてメンバーの名前を確認したときには、「ああ、なるほど!」と納得したのをおぼえている。奇妙礼太郎トラベルスイング楽団や、アニメーションズのヴォーカルとしても活動中で、最近ではCM曲歌唱に加え、出演も果たしている奇妙礼太郎(Vocal , Guitar)、6人組バンド「ワンダフルボーイズ」でヴォーカルを務めるSundayカミデ(Chorus , Piano)、そして奇妙礼太郎トラベルスイング楽団とfugacityでドラムを担当するテシマコージ(Drums)の3人からなるこのバンド。すでに多くの音楽ファンの間で話題になっているが、2015年11月4日、ついにセカンドアルバム『アリスとテレス』でunBORDE(ワーナーミュージックジャパン)よりメジャーデビューを果たす。セカンドが発売されるまで、昨年4月に発表されたファーストアルバム『アインとシュタイン』を聴いて待ちたい(言うまでもないことだが、アルバムタイトルにも、それぞれ“天才”の名が使われている)。

すぐれたソングライターであるSundayカミデが、自身の楽曲を奇妙礼太郎に歌ってもらいたい、また奇妙礼太郎も、Sundayカミデの曲だけでアルバムを作りたいという、それぞれの素朴な思いからファーストアルバムのレコーディングは始まった。そんな経緯もあり『アインとシュタイン』には、すべてSundayカミデ率いるワンダフルボーイズですでに発表された楽曲が並ぶ(“LOVE STORY”は天才バンドでの発表が先)。“天王寺ガール”や“君が誰かの彼女になりくさっても”は、奇妙礼太郎のレパートリーとしても知られているが、天才バンド名義のこのファーストアルバムは明らかに「ロックの名盤」として歴史に残るものと思う。パンチが効いていながらナイーヴな奇妙礼太郎のヴォーカルは、この天才バンドにおいては、ものすごくロックを感じさせるのだ。

“君が誰かの彼女になりくさっても”という名曲は、ワンダフルボーイズでSundayカミデがピアノを弾きながら歌うバージョンも、奇妙礼太郎がソロで張り裂けそうな思いをそのまま吐き出すように歌うバージョンも、どちらもとても素晴らしい。聴き手が思わず感情を没入させてしまうこの超名曲が、天才バンドの演奏では、バンドという形態ゆえにほんの少し冷静にクールに響く。でもそれがよけいにキリキリと胸に刺さってくるから不思議だ。泣きそうになるのをこらえて、でもどうしようもなく涙が一粒こぼれてしまう、そんな抗いようのない切なさこそ「ロックの名盤」が持つ輝きなのだと思う。このアルバムは全編を通して、その輝きに満ちている。

この『アインとシュタイン』の歌詞カードには、それぞれの歌詞の横に、Sundayカミデによる一言コメントがついていて、その楽曲についての、彼の個人的な思い出が綴られていたりもする。それがまたちょっぴり甘酸っぱい。歌詞カードを両手で開いたままの姿勢で、文字を追いながらアルバム1枚を聴き通す。久しぶりにそんなことをしてしまったアルバムでもあった。そんなわけで、天才バンドのセカンドアルバムが非常に待ち遠しいこの頃、ファースト未聴の人には、ぜひいまのうちに聴いておくことをオススメする。歌詞カードを握りしめながら。(杉浦美恵)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする