今週のRO69ニュースROUND UP:「勝手に使うな!」 ロック・ソングの政治利用を巡るアーティストと政治家の攻防戦

今週のRO69ニュースROUND UP:「勝手に使うな!」 ロック・ソングの政治利用を巡るアーティストと政治家の攻防戦 - R.E.M. 1987年作『ドキュメント』R.E.M. 1987年作『ドキュメント』

6月に米大統領選での共和党の指名争いに名乗りを上げて以来、数々の暴言迷言と共に注目を集めているドナルド・トランプだが、そんなトランプが自身の選挙キャンペーン・ソングとしてR.E.M.の“It’s The End Of The World As We Know It (And I Feel Fine)”を無断で使用したことで、バンド側が大きく反発している。

トランプが“It’s The End Of The World As We Know It (And I Feel Fine)”を流したのは9月9日に行われた選挙集会でのこと。これを受けてバンドは正式に次のような声明を発表した。

「僕たちは僕たちの楽曲が政治行事で使用される事を許可していないし、そのようなことを行使しないよう選挙の候補者たちにも求めたい」

また、マイク・ミルズはマイケル・スタイプの発言を引用するかたちで「恥を知れ、この哀れなピエロ、権力欲の塊の小心者め」とツイートしている。

ちなみにトランプは今回のR.E.M.の騒動の前にも、立候補表明時にニール・ヤングの“Rockin’ in the Free World”をキャンペーンで使っており、勝手に使われたヤング側はもちろんクレームを入れている。ヤングは自分が民主党から大統領選に立候補の名乗りを挙げたバーニー・サンダースを支持していることを表明し、トランプの政治活動には加担したくないとバッサリ。

ちなみにサンダースは最低賃金を時給15ドルに引き上げ、大手銀行の解体を唱える社会主義者として知られており、つまりは極右のトランプの対極を行くスーパー・リベラルな政治家。ヤングが支持するのも納得なのだ。なお、トランプが使用を取り下げた“Rockin’ in the Free World”は現在サンダースのキャンペーン・ソングとして使用されている。

このように政治利用されたロック・ソングの例は、過去にも枚挙にいとまがない。最も有名なのはブルース・スプリングスティーンの“Born In The USA”だろう。1984年、時の大統領ドナルド・レーガンは同ナンバーを「おれはアメリカ生まれだぜ!」と高らかに歌う愛国ソングとして誤認誤用し、政権と共和党の支持拡大に繋げていった。「救いの無い街に生まれて、殴られる犬みたいな一生を終えるしかない」と歌われるこの曲の真のメッセージはするっとスルーされたわけだ。

2000年の選挙戦でスティングの“Brand New Day”をキャンペーン・ソングに使用し、スティングに「イギリス人の俺をアメリカの政治に巻き込むな」と叱られたのはジョージ・W・ブッシュ。ブッシュはトム・ペティの"I Won't Back Down"も使ってやめろと言われている。

トランプ、レーガン、ブッシュと上記の例を挙げるまでもなく、ロック・アーティストから楽曲の使用を拒絶されるのは圧倒的に共和党の候補が多い。近年の共和党候補で特に派手にやらかしているのがジョン・マケインだ。

2008年の大統領選でマケインはフー・ファイターズの“My Hero”を使用してもちろんバンド側は猛抗議。デイヴ・グロールがマケインと大統領選を戦ったバラク・オバマの熱心な支持者であることは少し調べれば分かるはずなのに…。なお、マケインはヴァン・ヘイレンの“Right Now”や、ABBAの“Take a Chance on Me”でも使用停止を求められている。

トランプに負けず劣らずトンデモ保守な問題発言の数々で話題の元アラスカ州副知事のサラ・ペイリンは、ハートの"Barracuda" でロックの女子力を拝借しようとして失敗したケース。ペイリンはボン・ジョヴィの"Who Says You Can't Go Home"の無断使用でも抗議されている。ジョン・ボン・ジョヴィも民主党支持で有名です。

前回2012年の大統領選でオバマと争ったミット・ロムニーもなかなかやらかしている。シルヴァーサン・ピックアップスの“Panic Switch”からケイナーンの"Wavin' Flag"まで、無断使用楽曲のジャンルの幅が無駄に広いのも彼の特徴。

共和党の若手のホープとして今回の大統領選に出馬表明したスコット・ウォーカーは、ドロップキック・マーフィーズの"I'm Shipping Up to Boston"を使用。バンド側は「頼むからやめてくれ、俺たちはあんたが心底大嫌いなんだよ!」とツイッターで大抗議。

ちなみにこのウォーカーという人、労働組合の賃金交渉権を制限する等のバリバリの保守派で、どう考えても硬派パンクスのマーフィーズが使用を許すはずがないだろうということが何故わからない!?

これらのロック・ソングの政治利用の数々を振り返って改めて思うのは、「タイトルだけで選曲して絶対ちゃんと曲聴いてないだろう……」ということ。「World」とか「Free」とか「Flag」とか「Hero」とかタイトルに入っている曲は、これからも政治家に狙われそうな気がします。(粉川しの)
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