【コラム】フジファブリック、竹内まりや&オザケンを歌う! 「歌」と「アレンジ」の関係を解く

【コラム】フジファブリック、竹内まりや&オザケンを歌う! 「歌」と「アレンジ」の関係を解く

10月13日に、フジファブリックがNHK BSプレミアム『The Covers』に出演した。毎回さまざまなアーティストたちが出演し、思い出や影響を語りながら名曲のカヴァーを披露する人気番組で、フジファブリックが取り上げたのは、竹内まりや“純愛ラプソディ”と、小沢健二“ぼくらが旅に出る理由”の2曲であった。

最初に披露された“純愛ラプソディ”は1994年のビッグヒットで、竹内まりや自身が作詞作曲を、私生活のパートナーでもある山下達郎が編曲を手がけている。完成度の高い楽曲のリアレンジについて、山内総一郎(Vo・G)は「怖いですよね(笑)」と語り、くっきりと歌声・歌詞を浮かび上がらせる洗練された演奏を披露した。そもそもは山内の母親が大好きな楽曲だそうで、「聴いていると、掃除機の音まで聞こえてくるような」というほど記憶に馴染んでいるらしい。背徳的な恋心を軽快に歌い上げたこの曲のカヴァーについて、司会のリリー・フランキーは「若い人でもよくあるじゃないですか。彼女がいる人を好きになっちゃったりとか。正しいことだけを考えて900年生きたヨーダが言ってましたから。人はダークフォースに惹かれやすい、って」とコメントしていた。

続いて披露されたのは、“ぼくらが旅に出る理由”。9曲中7曲がシングル化された小沢健二『LIFE』にも収録されたナンバーで、こちらも1994年に発表されている。「宇宙へ行っちゃうような、スペーシーな」アレンジでこの曲を演奏するフジファブリック。《遠くから届く宇宙の光》という歌詞のフレーズが、金澤ダイスケ(Key)のシンセサウンドに映える。1コーラス目はシンセだけをバックに、その直後、加藤慎一(B)とサポートドラマー・BOBOのダイナミックなサウンドが、そして金澤のハーモニーワークも加わってロックに届けられた秀逸なカヴァーであった。音楽にのめり込み始めた思春期、手当たり次第にヒットチャートの音楽を聴き、その中でとりわけ好きだったのが“ぼくらが旅に出る理由”だと、山内は語っていた。

彼らの演奏スキルがそれぞれに際立つ、対照的なアレンジ。しかし不思議と共通していたのは、歌が身体に刷り込まれ、その上で山内らしい節回しが届けられるというヴォーカルの印象だった。司会の夏菜に歌ってほしい楽曲を提案する「グッとくるソング」のコーナーでは、金澤と加藤が太田裕美“木綿のハンカチーフ”で丸かぶりしていて面白かったけれど、山内がチューリップ“虹とスニーカーの頃”を、歌詞を引用しながら熱弁をふるって提案する姿も印象深かった。音楽的なインパクトを踏まえた上で、最終的には歌が伝える情景や心象に着地しているのである。

そこには、フジファブリックというバンドの本質が透かし見える気がした。メロディやアレンジの冒険を続け、それを支えるために演奏スキルの飽くなき向上に努めながら、作品に込められた情景や心象は明瞭に残されている、あの手応えだ。不倫の歌なのに溌剌とした恋のエネルギーに満ち溢れていたり、別れの歌なのにとても前向きな旅立ちの視界が広がっていたり。歌だからこそ鮮やかに伝わるものが、彼らのカヴァーには息づいていた。番組の最後には、新作ミニアルバム『GIRLS』から“夜明け前”も、じっくりとエモーショナルに披露される。「恋愛」をテーマにした2のコンセプトミニアルバム『BOYS』&『GIRLS』という新たな物語を携え、彼らは加藤の故郷・金沢での凱旋公演含む、新たなツアーに旅立つ。(小池宏和)

●【ディスクレヴュー】フジファブリック『BOYS』
http://ro69.jp/disc/detail/126307
●【ディスクレヴュー】フジファブリック『GIRLS』
http://ro69.jp/disc/detail/132442
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