前作『Burning tree』からほぼ1年という短いスパンでリリースされる、GRAPEVINEのニューアルバム『BABEL, BABEL』。若手アーティストならともかく、通算14作目、レーベル移籍後2作目となるアルバムがこれほど快調なペースで届けられてしまうことには、驚きを禁じえない。なにしろGRAPEVINEは、いかに快調であっても、明らかにそれとわかる新鮮なテーマをアルバムごとに吹き込んできたバンドなのだ。
ちょうど1年前にリリースされた『Burning tree』は、ベテランらしい安定感と野心的なソングライティングの絶妙なバランス感覚がアルバム全編から立ち上ってくる作風で、そのバンド単位で共有された成長をじっくりと味わえる1枚だった。個人的にも2015年内に最も多く愛聴したアルバムのひとつだ。そして新作『BABEL, BABEL』は、亀井亨(Dr)による作曲が全11曲中5曲(シングル“EAST OF THE SUN”や“UNOMI”含む)、他の6曲はGRAPEVINEとしての作曲クレジットになっている。このことからも、バンドセッションの作曲から得られる成果に強い手応えを感じていることが伺える。
「ワングルーヴのものが多いですかね。サビらしいサビとかBメロらしいBメロのない感じ。近年、A・B・サビみたいなの嫌ってますから(笑)」。現在発売中の『ROCKIN’ON JAPAN』3月号に掲載されたインタヴュー(インタヴュアーは今井智子氏)の中で、田中和将(Vo・G)は新作についてそう語っている。「自分らがおもろいかどうか。もちろんリスナーのことを考えていないわけじゃないですよ、ゼロではないですけど、そこを中心に据えるとロクなことにならないですね」。
確かに、“Golden Dawn”や、アルバムの表題に繋がる1曲“BABEL”、そして10月にサプライズ配信されていた“EVIL EYE”といった楽曲では、セッションから得られたそれぞれに斬新なグルーヴが今のバインの推進力を伝えている。結果的には、メロディオリエンテッドな作風が多い亀井曲との鮮やかなコントラストを描くことにもなっていて見事だ。重要なのは、これらの成果がバンド内の閉鎖的なムードから生み出されているのではなく、田中の発言からもわかるように、インディーズデビュー20周年(メジャーでは18周年)の経験から導き出されているということだ。
そして田中の歌詞は、アルバムリリース前から全11曲分がインターネット上に公開されていた。時代をえぐりつつ、詩的で普遍的な作風へと昇華された言葉が、アルバムへのリスニング欲を駆り立てるというわけだ。一枚岩バンドとして今も新たな風景の中へと飛び込んでいくバインの、ロックメディアたる鋭い視線をひしひしと感じさせるアルバムである。(小池宏和)