【コラム】SiM最新作『THE BEAUTiFUL PEOPLE』はなぜ「美しい」のか?

【コラム】SiM最新作『THE BEAUTiFUL PEOPLE』はなぜ「美しい」のか?

SiMが4月6日にリリースした待望のニューアルバム『THE BEAUTiFUL PEOPLE』は、極めてストイックな決断の連続によって構成されたアルバムだ。音も、言葉も、徹底的に決断を重ねることで研ぎ澄まされている。たとえば、オープニングナンバーを飾る“MAKE ME DEAD!”。上っ面だけではない、本質の変化を自分自身に求めるMAHの叫びは、「俺を殺せ」というニュアンスの過剰なフレーズとなって表れている。決断を突き詰めなければ、こんなふうに強烈なフレーズは生まれてこない。

アルバムタイトルは『THE BEAUTiFUL PEOPLE』だが、そもそも「美」を定義するのは難しい。「美」は究極的には人それぞれの感覚に根ざした概念だし、あなたにとっての「美」が僕にとっての「美」と違っていることも往々にしてある。どんなに高尚とされる芸術作品でも、あなた自身が価値を見出さなければゴミ同然だ。ところが、世の中はいつでも数の論理によって「美」を定義しようとしてくる。ありとあらゆる格付け(もちろん音楽のチャートもそう)や、貨幣に換算した価値を日々押しつけてくる。あなたにとっての「美」が脅かされたとき、どうしたらいいか。決断を繰り返し、主張を研ぎ澄ませ、自分自身の「美」を守らなければならない。ロックはずっとその歴史の中で戦ってきた。つまり、『THE BEAUTiFUL PEOPLE』は、SiMでしかありえない方法で、ロックの本質に迫る素晴らしいアルバムなのである。

思い返せば昨年秋、ライヴハウスを自分たちの居場所と考えるSiMは、最初にして最後と位置付けられた武道館公演を行った。ただし彼らは、居心地悪そうにライヴを行ったわけではない。逆だ。決断に決断を重ねたアイデアの数々を持ち込み、武道館を誰も見たことのない熱狂で染め上げてみせた。僕はそれに触れて、本当に見事な、王道の武道館ロックコンサートだと感じた。最新アルバムでは、武道館までライヴ披露を控えていたという“EXiSTENCE”であのときの興奮を呼び起こした直後、美しくもうなだれたレゲエパンクの“Life is Beautiful”でクライマックスを迎える。

《俺は自分が大嫌いだ/地獄へと真っ逆さまさ/天国の“底”をにらむ事しかできなくて/あぁ、人生は素晴らしいだろう/お前にとっては、な》(“Life is Beautiful”歌詞対訳より)

“EXiSTENCE”が収められたEPのタイトルは『ANGELS and DEViLS』だった。天使にとっての「美」と悪魔にとっての「美」が同じである必要はない。ただ、いつでも如何わしく、奇妙奇天烈なロックサウンドを突き詰めたSiMの『THE BEAUTiFUL PEOPLE』という主張を、僕は美しいと思う。ここには、かつて《俺はただおまえと やりたいだけ》と歌ったバンドの、あるいは《ドブネズミみたいに美しくなりたい》と歌ったバンドの、そして《淋しさだとか 優しさだとか 温もりだとか言うけれど/そんな言葉に興味はないぜ》と歌ったバンドの純粋なスピリットが、受け継がれているように思う。(小池宏和)
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