今年1月に2作目のソロアルバム『カタルシス』を放って以降も次々にシングル作を発表しているSKY-HIと、4月にセルフプロデュースのアルバム『Good Morning』を発表したSALU。それぞれに強烈な個性でヒップホップシーンをリードしているふたりが、2016年10月26日にコラボレーションアルバム『Say Hello to My Minions』をリリースした。このタイミングで制作が進められていたことが驚きだし、全9トラックに込められた濃密な内容にもう一回驚かされる、そんなアルバムである。
先に周辺情報を整理しておくと、SKY-HIとSALUはこれまでにもミュージックビデオにカメオ出演したり、またプライベートにおいても浅からぬ交流があったそうなのだが、音楽作品でコラボレーションが果たされるのは今回が初になる。3月にSKY-HIのラジオ番組にSALUが出演したことから、楽曲コラボ話がとんとん拍子に転がっていったという。2、3曲のつもりが9曲入りのアルバムにまで膨らんだのだから、制作時に立ち込めていたグッドヴァイブスやスピード感が窺えようというものだ。
肝心のコラボ内容についてなのだが、オープニングを飾るタイトル曲“Say Hello to My Minions”では、実在(歴史)人物や漫画/アニメキャラを引き合いに自分語りをしまくるSKY-HIのリリックを受け、SALUが同様のスタイルで返す。それぞれに持ち味のフロウを活かしながらも、テーマを汲んで小気味よく楽曲が進んでゆくのだ。ライフスタイルのメッセージが込められた“威風堂々”では、ビジョンと結論をがっちり共有しつつ、SKY-HIが《履かなくなったティンバー》というフレーズを用いる一方でSALUが《でもコンバース今も履くぜ》とラップしている。
トラックプロデュースは、JIGGとGaius Okamotoが、楽曲によっては両者の共作という形で担当している。重厚にして不穏なトラップチューンとなった“No Chill”も共作曲だ。ひたすらにヒップホップミュージックとしてのかっこよさを追求したのは、コラボ作だからこそという部分もあるだろう。世界レベルで斬新かつ刺激的なトラック群がずらりと並んでいる。ナチュラルに滲み出る「うまみ」が、ポップ成分として働いている印象だ。
クリエイティブな活動というのは、時間さえかければ良いものが出来上がるというほど単純なものではない。高揚感やひらめき、集中力、それを支える体力(元気でありさえすればいいわけでもないのがまたややこしい)と、さまざまな人間らしい要因が絡んでくる。コラボ作としての高まったムードと、ふたりのラッパーとしてのコミュニケーションの練度の高さがもろに反映された『Say Hello to My Minions』は、スリリングな制作期間のスピード感があればこそ生み出された、素晴らしいアルバムなのだと思う。(小池宏和)