【感動検証】9mmの「5人体制ライブ」が完膚なきまでに「9mm」だったことについて

最新アルバム『BABEL』のリリースツアーとして開催中の9mm Parabellum Bulletホールツアー「TOUR OF BABEL」初日=6月11日:横浜・神奈川県民ホール公演は、9mm史上最も凄絶な『BABEL』の音楽世界を堂々と響かせきった、素晴らしいライブだった。
と同時に、9mmというバンドが体現し続けるロックの衝撃の構造を、改めて眼前に突きつけてくるアクトでもあった。

ご存知の通り9mmは現在、「ギタリストでありメインソングライターであり『BABEL』の全作曲&プロデュースも手掛けた滝善充が腕の不調のためライブ活動休止中」というイレギュラーな状況下にある。そのため、今回の「TOUR OF BABEL」も滝は不在、サポートギタリストを迎えてライブを行っている。
しかし――これまで幾度もバンドの窮地を救ってきた武田将幸(HERE)、さらに為川裕也(folca)というWギターを迎えて臨んだツアー初日の神奈川県民ホールには、『BABEL』の高度な構築性が、どこまでも壮大なスケールで炸裂していた。
滝の不在による一抹の不安も瞬殺する、圧倒的なまでのロックオーケストラだった。

「菅原卓郎含めトリプルギター編成で9mmの曲を演奏すれば、そりゃあ迫力あるだろう」と思う人も当然いることと思う。だが、果たしてそれだけだろうか?
そう考えた時に、ふと思い至った光景がある。このライブの10日前、6月1日に東京・渋谷WWW Xにて行われたcinema staffのツアー「高機動熱源体」初日公演に、9mmがゲスト出演した時のことだ。

為川裕也がサポートを務める4人編成で登場したこの日のステージの中盤、一時退場した為川に代わり、かつてのレーベルメイトでもある盟友バンド・cinema staffから辻友貴がゲストギタリストとして登場。“Lovecall From The World”や“(teenage) Disaster”など9mm曲を4曲にわたってコラボしていた。
「譜面通りに弾けていたか否か」の観点で言えば、むしろ武田/為川の方がサポートギタリストとして格段にシュアな演奏を繰り広げていると思う。が、あふれ返る感慨とエモーションを胸に、ギターパートの構築美もなぎ倒さんばかりに獰猛なプレイを展開する辻を加えた4人編成でのライブは、不思議なことに、インディーズ時代から観てきた「9mm像」に限りなく近い熱量に満ちていた。

『BABEL』リリース時にrockinon.comで公開された滝単独インタビューからも、ソングライター&プロデューサーとしての滝の高性能ぶりと「足し算の美学」とでも言うべき構築志向が十分に窺えるはずだ。だが、こと9mmのライブにおいては、滝は構築とは真逆と言ってもいいベクトルの爆発力を孕んだパフォーマーでもある。

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自分自身が丹念にデザインし、辣腕メンバーのテクと鍛錬によって築き上げられたロックのアンサンブルの中で、楽曲のバランスの崩壊すら厭わないほどの衝動とダイナミズムをもってロックを体現していく。
言うなれば、滝の中に共存する「構築の美学」と「破綻寸前のスリル」が、菅原卓郎/中村和彦/かみじょうちひろの圧巻のポテンシャルと共鳴しながら、9mmという表現世界を描き上げている、ということだ。
タッピング/ツーバスやハードエッジなリフワークをはじめ、ヘヴィメタル的な要素を多く備えた9mmの音楽が、それでもメタルとは明確に一線を画したロックであり続けているのはまさにその、破滅も恐れずカオスの先へ突き進む刹那性ゆえなのだろう。

すっかり長くなってしまったが、ここで話はツアー初日・神奈川県民ホールへ戻る。

この日ライブで披露された「5人ライブ」のサウンドは、『BABEL』のヘヴィで重厚感に満ちた楽曲世界を、驚くほどクリアかつダイレクトに伝えてくるものだったし、1曲ごとに客席一面に湧き上がる割れんばかりの大歓声は、目の前で鳴っている音像が観る者すべての期待値を遥かに凌駕していたことをリアルに物語っていた。

ライブ後に挨拶した際に卓郎は「ギタリスト3人で和音構成を住み分けて音が濁らないように工夫した」と教えてくれたし、そうしたギターパートのオーケストレーション再検証によって、リズムも歌も含めすべてがくっきりと際立って耳に飛び込んでくる効果が生まれていたことも、その音像のクリアさの一因ではある。
しかし、今回の名演の中でも特に『BABEL』曲群をひときわ鮮烈に轟かせるに至った最大の要因は、5人の卓越した表現者たちが、滝のデザインした楽曲を微塵のブレもなく強靭に響かせることに邁進していたことにあるのだろうと思う。
バンドのライブ活動からの離脱を余儀なくされている滝が、己の作曲とプロデュースとギタープレイを通じて楽曲にこめた「構築の美学」を、誰ひとり「破綻」させることなく響かせた結果、9mmは音楽的に破格の進化を遂げるに至ったのである。

「挑まないとダメだなあと思って。びっくりするようなものを出さないと――今回わかったのは、マジでこれくらいびっくりするようなものを作らないと、9mmっぽくないなあって。みんなを驚かせることができないと、今までと同じようなことをやってたら、それは腐っていくだけだなあって」

前述のrockinon.comのインタビューで、滝はそんなふうに9mmの「これから」への意欲を語っていた。
もちろん、滝が作ったのはあくまで『BABEL』の楽曲&アレンジという名の基本プログラムであり、その後のバンドメンバー個々の進化は滝ひとりのプログラムによって実現されたものではない。
とはいえ、ひとつだけ間違いないのは、特殊な「5人編成」で行われたこの日のライブが、どこまでもタフに鍛え上がったプレイを聴かせた卓郎/和彦/かみじょうの3人だけでなく、舞台にいない滝の存在をも確かに感じさせるものだった、ということだ。

おそらく、滝が戦列に復帰して万全の態勢で『BABEL』の楽曲を演奏すれば、今回の5人編成とはまったく異なるものになるだろう。だが、9mmは今この状況においても、最大限の闘志をもって「4人」の音楽を響かせていた。それが何より感動的だった。(高橋智樹)

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