前置きがかなり長くなってしまったが、以上を踏まえて新シングル『Girls』に改めて目を向けてみる。“会いたくて 会いたくて”や“Best Friend”にも携わった作曲家・GIORGIO CANCEMIが手掛けるサウンドは、まずBPM85程度のビートが一歩一歩着実に地面を踏みしめていく足音のように重く打ち込まれているのが印象的だ。そこに乗る西野のボーカルは、ミディアムテンポだからこそ自前のしなやかさと溌剌さがいつも以上に引き立てられ、Aメロから有り余るエネルギーを匂わせる。そしてその歌声はサビで一気に花開くブラスやストリングスの煌びやかな音像と重なり、とんでもないボリュームのバイタリティを開放していく。聴き手の胸を大いに揺さぶる、壮大なアンサンブルがここでは繰り広げられているのだ。
そして西野のリリック。個人的に最もグッときたのは、《悲しいことは忘れるの/甘い甘い夢を見て/それでもやる時はやるの/それが私たちでしょ》という箇所だ。《それが私たちでしょ》――なんともハッとさせられるフレーズである。ステージ上やテレビ画面の向こう側やイヤホンの奥で歌っている西野カナも、自分と同じ時代を生き、同じ地面の上で、同じ女性として生活を送っている。シンガーとして活躍する彼女しか知らないからこそ、聴き手としてはそんな当然の事実すら見落としてしまいがちだが、それを西野は自ら拾い上げて提示し、リスナーとともにこの世界で闘っていく姿勢を見せているわけだ。そこにたまらなく胸が打たれたし、『Just LOVE』よりもさらに女子という生き物の核心に踏み込んだ、目ざましいポップスが結実したと確信した。
そしてもう一つ言及しなければならないのが、西野が髪を30cm以上カットした新ビジュアルになったこと。彼女が従来のゆるふわロングヘアから卒業し「切りっぱなしボブ」になったのは、このパワフルな歌詞をより高い説得力をもって歌うためなのだろうが、それだけではないような気もしてくる。
「女性が髪を切るのは失恋したとき」というセオリーがあるように、西野カナは髪をバッサリ切ることで、恋に破れた後に現れるような女性のタフさ――自分をフッた相手を見返そうと/振り向かせようとして、何かしらの努力をし出すような、悲しみをバネにできる屈強さ――を歌いたいという意思を表しているのではないだろうか。つまり、「これからは思い通りにならない恋愛を嘆く女性像を歌うのではなく、逆境を逆手にとって自らの血肉に変えられる女子たちの強かさを歌い上げていく」という宣誓を、今、はっきりと自身のビジュアルで示したのではないかと思うのである。それが本当かどうかは定かでないが、どちらにしろこれだけは声を大にして言わせていただきたい――最新シングル『Girls』は間違いなく、西野カナのモードが大きく転換する主点になる、と。
カップリング曲2曲を含め、シングル『Girls』は現在先行配信中である。CDとしてのリリースは7月26日(水)となるが、どういう形態であれこの作品は本当に心して聴いてほしい。これまでのモードに別れを告げ、健気さと歌を歌うことへの新たな意義を得た姿――すなわち同作のジャケット写真のように凛と立つ、彼女の姿が自然と目に浮かんでくるはずだから。
(笠原瑛里)
なぜ西野カナは30cmも髪を切り、今「Girls」というテーマを歌うのか?
2017.07.25 13:00