ロバート・プラントの新作『キャリー・ファイア』が素晴らしい。21世紀型プラントを総括する傑作

ロバート・プラントの新作『キャリー・ファイア』が素晴らしい。21世紀型プラントを総括する傑作

10月13日に日本を含めて世界同時発売された、ロバート・プラントの新作『キャリー・ファイア』が素晴らしい。2014年の前作『ララバイ・アンド… ザ・シースレス・ロアー』に続き現行バンドのザ・センセーショナル・スペース・シフターズを率いての一枚だが、前作と比較するとプログラミングのグルーヴが控えめになり、ストリングスやホーンを含めたオーガニックなサウンドの絡み合いが、重厚にしてロマンチックなロードムービーを描いてゆくような作品だ。21世紀型プラントを総括する傑作である。

冒頭の“The May Queen”からエキゾチックで雄大なデザート・ブルーズのリフレインを奏でている、エジプト育ちの英国人ギタリスト=ジャスティン・アダムスは、プラントの2002年作『ドリームランド』の頃から当時のバンド=ストレンジ・センセーション(現在のバンドの母体と言える布陣)の一員として断続的にコラボレーションが続いている。西/北アフリカのヴァイブが有機的にミックスされるスタイルは、この2人の出会いを起点に始まったと言えるだろう。

Robert Plant - The May Queen

ジャスティンとのユニット=JUJUでも知られるガンビア出身のジュルデー・カマラも、ザ・センセーショナル・スペース・シフターズの独創性溢れるミクスチャー感覚を支えているメンバーだ。新作ではさらに、ソロ・アーティストとしても英国のフォーク・シーンで活躍しているセス・レイクマンがラインナップに加わり、ヴィオラやフィドルを担当している。

無国籍で越境性の高い音楽を生み出しながら、プラントとザ・センセーショナル・スペース・シフターズが何よりも素晴らしいのは、現代的なロック/ポップのバランス感覚が活かされた楽曲デザインを達成している点だろう。“Dance With You Tonight”や“A Way With Words”といった、プラントの瑞々しく滋味深い歌声を軸に据えた新作曲からも、それは明らかだ。

あらゆるパートが沸々と立ち上るエモーションを紡ぎ上げて行くような表題曲“Carry Fire”の説得力も凄い。極め付けに、ザ・プリテンダーズのクリッシー・ハインドをゲストに招いてボーカルをシェアした“Bluebirds Over the Mountain”である。かつてザ・ビーチ・ボーイズもレコーディングしたこのナンバーを、強烈にエクスペリメンタルかつ刺激的なロックチューンに仕立て上げてしまった。

Robert Plant - Bluebirds Over the Mountain

前述のとおり、プラントが西/北アフリカ音楽のエレメントを大胆に導入するようになったのは00年代初頭からだが、創造性の高まりを見せつけた『マイティ・リアレンジャー』(2005)の後、プラントはブルーグラス畑のアリソン・クラウスと共にUSルーツ・ミュージックに傾倒したコラボ・アルバム『レイジング・サンド』でグラミー賞を獲得する。

更には、かつてジョン・ボーナムらと組んでいたバンドの名を冠するアルバム『バンド・オブ・ジョイ』(2010)を新バンドと共に製作。アメリカーナに踏み込んだロックを鳴らしたついでに、バンドメイトのパティ・グリフィンと恋に落ちたりしている。とにかく、プラントは一貫して、新しい音楽への探究心とそれを形にするバイタリティに満ち溢れているのだ。

『祭典の日』として映像作品化された2007年のレッド・ツェッペリン再結成ライブ以降も、ツェッペリンのツアーは何度か噂され、そのすべてが噂以上のものではなかった。中には、5億ポンドのオファーをプラントが蹴ったというガセネタまであった。人々の期待はそれほどに大きいし、その大きさはツェッペリンというバンドの偉大さに比例している。プラントの前作がリリースされたとき、世間はツェッペリンの最新リマスター・シリーズに夢中であった。

しかしプラントは、ただツェッペリンをやりたくないから、という消極的な姿勢には思えないほど、自身のプロジェクトを前進させることに夢中なのだ。「ツェッペリンをやる必要がない」、もっと身も蓋もない言い方をすれば「音楽的にも経済的にも困ってない」というぐらい、充実している。ツェッペリンが解散した時に6歳だった僕は、ペイジ&プラントの来日公演にどうにか間に合った世代であり、いつか伝説のバンドを観ることができないかと淡い期待を抱きながら、半ば歯痒い思いでプラントの活躍ぶりを追ってきた。

今はこう考えている。貪欲に世界中の音楽を探求し、ミックスし、斬新な神秘性を導き出してきたバンドがレッド・ツェッペリンなら、今日において最もツェッペリン的な活動を実践している元メンバーはロバート・プラントだ、と。新作『キャリー・ファイア』は、そのひとつの到達点である。いつもどおり歯痒い思いをしながら、いつもどおりこの人は凄いな、と思い知らされている。(小池宏和)
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