菅田将暉×ヤン・イクチュン主演映画『あゝ、荒野』は青春の愛と憎しみの殴り合い――その前篇を観た!

菅田将暉×ヤン・イクチュン主演映画『あゝ、荒野』は青春の愛と憎しみの殴り合い――その前篇を観た! - ©2017『あゝ、荒野』 フィルムパートナーズ©2017『あゝ、荒野』 フィルムパートナーズ
今月7日に前篇が、そして明後日21日に後篇が公開となる、映画『あゝ、荒野』。1966年に寺山修司が発表した同タイトルの長編小説が原作となっている作品だ。

原作の舞台は「昭和の新宿」だったが、岸善幸監督が再構築したこの映画の舞台は2021年、今から見れば「未来の新宿」である。東京五輪を終え、東日本大震災から10年が経ったこの物語の世界は、どこか現実味を帯びているよう。そして主人公たちは21歳と31歳という、お世辞にも少年とは言いがたい年齢だが、これだけははっきりと言える。この映画は間違いなく青春映画だ。こんなに男の涙を見ることのできる映画は、まず無いと思う。

映画だから当然スクリーンの中の役者たちは演技であるはずなのに、人間の持つ全ての感情がこれでもかと言うほど剥き出しになっている。特に、主人公・新次を演じる菅田将暉。表情にしろ、言葉にしろ、彼はどんな役においても陰と陽のコントラストを魅せるのがとてつもなく上手い。この作品でもそれは同じ、もしくは今まで以上に上手くなっていて、バリカンを「兄貴」と呼ぶときの顔と、リングに立つときの顔は、本当に同じ人間の表情なのかと疑った。それに対し、もうひとりの主人公・バリカンを演じるヤン・イクチュンの演技はどこまでも繊細だ。上手く喋ることのできない吃音持ちの役をこなし、作中で強烈な存在感を放っている。

そして、この映画の主題歌はBRAHMANの“今夜”。前回の作品が怒りに満ちた曲だっただけに、この“今夜”というタイトルにも、曲調にも、歌詞にも、全てに度肝を抜かれた。人間というのは本当は孤独で傷ついていても、弱い部分を他人には見せないようにして強がる生き物だが、この曲はそんな人間たちを全員まとめて抱擁するような曲だ。BRAHMANがエンドロールで示すこの優しさは、もはや映画の一部としか考えられない。

黒と白のように相反する、しかしどこか似た者同士のようにも見える新次とバリカンが、命の置き場を見つけていく姿が描かれていた前篇。さらに後篇で、登場人物たちの人間関係が複雑に絡み合っていくのは、予告編を見る限り明らかだ。新宿という街は、未来を拓く希望が散りばめられた沃野か、それとも孤独がそこかしこに転がっている荒野か。愛と憎しみは、やはり隣り合わせに存在するものなのか。
原作で寺山の描いていた「愛」が、映画では少し異なるアプローチをされているのも、この映画を盛り上げてくれる面白さのひとつだ。

この『あゝ、荒野』という映画が、誰に何の力をもたらすのかはある意味、未知数だが、観た人の心を包み込んで温めてくれることだけは確かだ。前・後篇合わせて305分の超大作、素晴らしい映画の影響力は計り知れない。(林なな)

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