10月28日・29日に東京体育館にて開催された、初のハロウィン単独公演「THE SPOOKY OBAKEYASHIKI ~PUMPKINS STRIKE BACK~」。同公演はライブ全編撮影OKで、もちろんきゃりー自身をバシバシ撮るのもOKというある意味異例な空間だった。
きゃりーのライブといえば、「それどういう仕組みになってるの?」とじっと目をこらして見てしまう凝った衣装や、ステージ全体を覆い尽くすような特大かつカラフルなセット&演出が見ものだ。だからこそライブ中の撮影に対しては人一倍厳しいのではと思っていたが、今回のこのルールには「アートワークの素晴らしさをお裾分けしたい」、「お客さん一人ひとりにきちんとライブの空気を持ち帰ってほしい」という彼女側の思いが滲んでいたように思えた。まずこの時点で、「これは相当粋なライブだな」とひとりで感激した。
個人的にこの公演のハイライトとして挙げたいのが、彼女のライブではお馴染みの「質問コーナー」での出来事。筆者が行った29日の質問コーナーでは最前列の女の子2人組がきゃりーに指名されたのだが、片方の女の子が、指名されたこと自体に感動し、つい泣き出しそうになってしまう。するとすかさずもうひとりの女の子が、「この子、誕生日が近いんです! お祝いしてもらえませんか?」ときゃりーにお願いをする。これに対しきゃりーは、「じゃあ、“ハッピーバースデートゥーユー”を歌います!」と応え、どこからともなく沸き起こった手拍子に合わせ、歌を歌い出した(ちなみに祝われた女の子は号泣)。
このあたたかな光景を目にした時、きゃりーぱみゅぱみゅというエンターテイナーとオーディエンスとの深い深い絆のようなものが、はっきりと見えたような気がした。
一方、きゃりーのライブは彼女の尊さに圧倒されるというものではなく、どちらかというと「みんなで作り上げていくもの」という感じがある。というのは、彼女のド派手なパフォーマンスや素直なキャラクターに感化されたオーディエンスが、彼女への愛心をさらに燃やし、それにまたきゃりー自身が茶目っ気たっぷりのMCや華やかな演出をもって応えていくという循環ができているからだ。今回のこの“ハッピーバースデートゥーユー”の件も、全編撮影OKにし、またトロッコを走らせできる限りファンに近づいてくれた挙句、ひとりのファンのために歌を歌ってあげるというきゃりーの優しい決断の連続に観客の心が揺り動かされ、だったらそのステージを整えましょうと言わんばかりに自然と手拍子が起こるという、いわば小粋の連鎖なのである。そういう意味ではきゃりーぱみゅぱみゅと観客というのは、ともにライブ空間を作り上げる「仲間」なのかもしれない。自ら「歌います」と宣言した彼女の言動はもちろん賞賛されるべきだが、その場を臨機応変に膳立てられるファンの機転もまた注目されるべきものだし、きゃりーのライブになくてはならないものだからだ。
……ここまで書いておいて今さらだが、本公演のテーマは「お化け屋敷ライブ」だった。3匹の妖怪がステージを占領したり、大量の貞子が出てくるなどの演出もあったが、しかし今回もまた、最終的に手に入れたのは抱えきれないほどの「喜」の塊だった。
デビュー6年目のこの一大イベントを踏まえ、彼女は今後どのような世界を見せてくれるだろうか? これからもそのきらびやかでいなせな空間に、(いい意味で)打ちのめされ続けたい。(笠原瑛里)