ミツキ、ウィーザー『パシフィック・デイドリーム』をレビュー。若さに頼らないソングライティングとは?
2017.11.09 17:35
10月27日に最新作『パシフィック・デイドリーム』をリリースしたウィーザーだが、この新作をミツキがレビューしている。
昨年アコースティック・セットでの初来日を果たしたミツキは11月24日と25日にバンドを率いての再来日を予定しているが、「the Talkhouse」に寄稿したレビューでソングライターとしての視点から『パシフィック・ドリーム』を考察している。
文章の幕開けで、ミツキは「ポップ・ソングを書く感覚が持てなくなった後、どうやったらポップ・ソングを書き続けられるのだろう?」という問いかけを読者に投げかけている。
さらに、戦後のポップ・カルチャー、もしくは文化の消費行動の原動力は若さや若さに伴う感覚であると分析、そして歳を重ね、ポップ・カルチャーの原動力を失いつつある中でどう「輝くような奔放さ」を出せばよいのだろう、と論を進める。
ミツキは“Happy Hour”の歌詞を聴いて、この作品のレビューを書くのには自分は適格ではないかもしれないと感じたのだという。
適任でない1つ目の理由は、「これは40歳をすぎた段階で、自分の存在意義と向き合う術を歌ったもの。そして私は先月27歳になったばかり」だから。
そして2つ目の理由は、このアルバムの楽曲を「ポップ・カルチャー」の住人たちにPRする手段の一つとして27歳の自分がいることに対して違和感がある、というもの。
Weezer - Happy Hour
これらの前提の上で、今年47歳のリヴァース・クオモの作曲能力は相変わらず冴えまくっているとミツキは指摘、90年代のウィーザー的なソングライティングに最新型のプロダクションをほどこした内容になっていると説明している。
“Feels Like Summer”や“La Mancha Screwjob”に至っては、完全にコンテンポラリーな楽曲として仕上がっており、アダム・レヴィーン率いるマルーン5の曲のように街中でかかっていてもおかしくないし、楽曲の構造としても“La Mancha Screwjob”などはSZA(シィザ)が共演するマルーン5の大ヒット曲“What Lovers Do”に似たものを持っていると考察。
Weezer - La Mancha Screw Job
Maroon 5 - What Lovers Do ft. SZA
加えて、ミツキは『ソング・エクスプローダー』というポッドキャストにリヴァースが出演し、最近の自身のソングライティングのアプローチについて解き明かしていた時のエピソードも紹介している。
それによれば、ある時期からリヴァースは歌詞やコード進行を毎日のルーティンとして制作・ストックし、そのストックから引っかかるものを取り出しては構成していくというアプローチを取っているというのだが、リヴァースはこうしたアプローチを通して「自分には理解し尽くせない楽曲を書いてみたいんだ」と説明しているという。
こうしたアプローチはたとえば、ある種の瞬間や感情を意識的に曲として捉え、それを作品化してリスナーにとってカタルシスになるような作品にしたいと試みる、通常の作曲アプローチからみれば不埒なものに思えるかもしれないが、映画監督のデヴィッド・リンチも同様なアプローチを取っていることを指摘。
そして、リヴァースもリンチも、極力アーティスト自身のエゴを排除し、無意識や環境の力によって自然発生的に作品を形にしていく境地に達しているとしている。
そして興味深いのは、こうしたアプローチで作品を形にすることで、アーティストは自意識過剰になることなしに、自ら提示したいと思える自身のイメージを提示できるのだとミツキは説明している。つまり、『パシフィック・デイドリーム』に関していえば、これはもはや達人の域にも達しているといえるリヴァースが、新たな未知なるものやかつて未知だったと思えたものをあらためて見出そうとしている「ミドルエイジのロック・スターとしての姿を誠実に映し出した作品」なのだ。
それは「イケてるオルタナ・ロック・スター」というイメージを排除していくことで、実はみんなに観てもらいたい自分の姿を明らかにしていくものでもあるのだとも指摘。
Weezer - Feels Like Summer
そうした境地の作品に触れたことで、20代後半を迎え、やみくもに若さを自身の創作の源泉とするわけにもいなくなってきた自分のアプローチについてもいろいろ考えさせられるものがあったとミツキは最後に綴っている。