今週の一枚 テイラー・スウィフト 『レピュテーション』

今週の一枚 テイラー・スウィフト 『レピュテーション』

テイラー・スウィフト
『レピュテーション』
11月10日発売

テイラー・スウィフトの3年ぶりのニュー・アルバムとなる『レピュテーション』のブックレットには、「私が人々について学んだこと」と題された、テイラー自身が記した長文のイントロダクションが寄せられている。その内容を要約すると、だいたいこういうことになるだろう。

他人に「こう見られたい」、「こう思われたい」自分をインターネット上でキュレーションすることが当たり前となった、最初の世代である私たち。「私」が他人に見栄えのいい「私」しか見せていないように、「私」が見ている誰かも、その人が「私」に見せたいその人でしかない。そんな都合のいい素顔の時代に、私たちは本物の関係性を築けるのだろうか?

Taylor Swift - Shake It Off

テイラーは前作『1989』の“Shake It Off”で、こう歌っていた。「たくさんデートをしたって長続きしない みんなはそう言うけど 関係ないよ 私は私のままでいく」、「人を妬む人は誰のことだって妬ましく思うもの だから、そんなのどうだっていいことなの」と。つまり、“Shake It Off ”は人にどう思われようが、「ありのまま」の自分でいいのだ、私たちはそうあるべきなのだというメッセージ・ソングだったと言っていい。

それに対して本作におけるテイラーは、そもそも「ありのままの自分」なんて、このセルフ・キュレーション時代において成立するものなのか?という疑問からスタートしている。人がどう思うか、人にどう思われるか、そういう「評判(reputation)」が私たちの「ありのまま」を実際は支配しているのだから、と。

Taylor Swift - Look What You Made Me Do

過去の自分の無数の評判をカリカチュアしたミュージック・ビデオも話題を呼んだ先行シングルの“Look What You Made Me Do”で、確執が続くカニエ・ウエストへの強烈なディス(「あなたのつまらない駆け引きは好きじゃない あなたの傾くステージ(※カニエのステージのこと)は好きじゃない」)をかまし、「私は誰も信じないし 誰も私を信じない あなたの悪夢に登場する女優に 私がなるのね」と、敢えてヒール役を買って出るように挑発してみせたテイラーは、本作で自分の評判(ほとんど悪評)をこれでもかとぶちまけている。

私はひどいことをしたって言われるけど それならどうしてこんなに気分が良いのかしら?」「魔女狩りで、みんな火あぶりにされている 本物の魔女じゃなくてもね じゃあ私に火をつけて 火あぶりにしてよ(“I Did Something Bad”)


私のお城は一夜にして崩れ落ちた 銃撃戦にナイフを持って行った私 王冠を奪われたけど大丈夫 嘘つき達が揃って 私を嘘つき呼ばわり(“Call It What You Want”)


Taylor Swift - Call It What You Want

また、エド・シーランがラップで参加した“End Game”には「大評判 大評判 あなたと私は大評判になっている 私の噂は聞いているでしょ? 手強い敵が何人かいるって」と歌われる一節があるが、この歌詞を親友同士のテイラーとエドが交互に歌っている様にはニヤリとさせられてしまう。

とにかく、本作の歌詞には過去数年間のテイラーに浴びせられた様々な評判、ゴシップ、偏見が散りばめられており、その露悪的なまでの言葉の数々には圧倒される。しかし彼女の真の凄さとは、「本当の私は違うのに!」と釈明したり、「傷ついた!」と自己憐憫や被害者意識をアピールすることは一切していないという点なのだ。人に誤解されること、本当の自分と乖離した評判が立つこと、それは冒頭で書いたセルフ・キュレーション時代の代償でもあるからだ。

80年代にオマージュを捧げた前作『1989』のカラフル&ポップなエレクトロから一転、本作のエレクトロ・サウンドはダークでモダンに変貌を遂げている。歪むベースライン、さらにオートチューンで歪まされたボーカルは、むしろ宿敵カニエ・ウエストの『イーザス』を彷彿させるサウンド・メイキングだったりするのも面白いが、本作の彼女の挑発性、ファイティング・モードにはこのハードな音色がぴったりはまっている。ここに至ってついにテイラーのカントリー・アーティストとしての痕跡が完全に消え失せているのも感慨深い。共感される等身大のポップ・アイコン、理想のアメリカン・ガールのイメージも彼女はついに放棄した。そういう意味では本作は剥き出しだし、ありのままなのだ。

Taylor Swift - Gorgeous

ちなみにテイラー・スウィフトと言えば、自身の恋バナを赤裸々に綴った歌詞にもどうしたって期待してしまうわけだが、本作でもその恋愛クラッシャー節は健在だ。「レンジ・ローバーだのジャガーだの 高級車に乗った男の子でも行けなかった所に あなたは連れて行ってくれるから」と歌われる“King Of My Heart”に登場するのは、ジャガーのCMに出演していた元彼トム・ヒドルストンだろうし、「友達に戻ろうといったのに 影で私を裏切っていたのね」と歌われる“This Is Why We Can’t Have Nice Things”は、元々彼カルヴィン・ハリスへのカウンター・パンチだろう。

また、トラップを全編にフィーチャーし、ブリッジはトロピカル・ハウスである“...Ready For It?”といい、“End Game”や“Call It What You Want”のメロウなR&B、ヒップホップといい、ここら辺のテイラーのトレンドの選球眼というか、したたかなポップの戦略性は流石だ。本作とロードの『メロドラマ』で共に辣腕を震ったプロデューサーのジャック・アントノフは、ベックリアム・ギャラガーフー・ファイターズの新作を手がけたグレッグ・カースティンと並んで、2017年の影の功労者と言ってもいいのではないか。

Taylor Swift - …Ready For It?

かくして「悪評? それが何か?」とでも言わんばかりの本作のテイラーだが、彼女はこうも歌うのだ。「私の評判は今までにないほど地に落ちているから ありのままの私を好きになってくれないと」(“Delicate”)と。

見せたくない自分も、見たくないあなたも、もういない。誤解も悪評も、それを背負ってなお私は私なのだからーーそう、彼女が本作で最終的に示しているのは、セルフ・キュレーション時代の大きな代償を払ってなお追い求めるに値する「ありのまま」であり、本物の素顔で向き合える誰かとの永遠の関係性をけっして諦めないという、究極のポジティビティでもある。デビューから11年、インタラクティブなコミュニケーションの中で無数の共感、無数の「イイネ!」と共に象られてきたアイコンであったテイラー・スウィフトだからこそ踏み出せた、新次元なのだ。(粉川しの)

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