back number・清水依与吏は、なぜ自らの看板を外して「路上弾き語り」に挑戦したか?

back number・清水依与吏は、なぜ自らの看板を外して「路上弾き語り」に挑戦したか? - 『瞬き』初回限定盤『瞬き』初回限定盤
back numberの最新シングル曲“瞬き”は、これまで清水依与吏(Vo・G)の描いてきたラブソングが、ひとつの揺るぎない確信として提示されたかのような、とても感動的なシングルである。《幸せとは》という、とても壮大な問い(人生をかけて追究するテーマと言ってもいい)に、はっきりと《大切な人に降りかかった雨に傘を差せる事だ》と言い切る強さがある。それはつまり、「あなたとでなければ意味がない景色」、「あなたとでなければ感じられないもの」だということ。とても大きなテーマなのに、これほど身近に感じられる言葉と歌で表現する清水依与吏という人は、やはり稀代の詩人なのだと思う。


さて。その最新シングル『瞬き』の初回限定盤には特典映像のDVDがパッケージされているのだが、そのコンテンツのひとつに、非常に貴重なドキュメンタリー映像が収録されている。なんと、清水依与吏が初めて路上ライブにトライした様子を映しているのだ。しかも、back numberの清水依与吏としてではなく、入念な変装をして、アコギ1本のみで人々が行き交う駅前でおもむろに歌い始めるという、観ているこちらも緊張するようなドキュメントだ。隠しカメラでの撮影のため、その場を通る人たちには、これが何らかの企画ライブであるとか、有名なミュージシャンの撮影だという雰囲気は微塵も感じさせないようにしてある。その隠しカメラの映像を、少し離れたロケバスの中でモニターする小島和也(B・Cho)と栗原寿(Dr)。「清水依与吏さんですよね?」とか、「back numberの〜」とか、素性がバレた時点でライブは終了。そしてback numberのシングル曲を歌うのは禁止(カップリング曲、アルバム収録曲から選曲する)というルールのもと、清水はひとり路上に立った。

そもそもこの企画が実現したのは、清水自身が「路上ライブをやってみたい」と言い出したからだったが、さすがにその場所にひとりで立った時には、「こんなとこで歌うんですか!?」と弱気のつぶやきも。そんな緊張感の中、誰も立ち止まることのない場所で清水が最初に歌うと決めたのは、アルバム『スーパースター』に収録されている“チェックのワンピース”。アコギのイメージが強い楽曲ではあるけれど、ちょっと意外な選曲。歌うと決めた後も「すげー緊張する」と戸惑いを隠しきれない清水。しかし歌い出せば、やはりその声には引き込まれてしまう。とはいえ、ここは忙しなく人が行き交う路上。1曲歌い終えても、誰もその場に足を止めようとはしない。でも、清水はそこで心折れるわけでもなく、「もう1曲やってみていいですか」と、路上ライブに必要な強いメンタリティを早くも発露しつつある様子もあって、ドキュメンタリー映像として、かなり興味深い内容だなと思った。で、その次に演奏したのが、彼らのインディーズ時代のミニアルバム『逃した魚』に収録されている“sympathy”だったこともあって、ちょっと感動してしまう。

最終的に清水の存在に気づいたのは、通りすがりのひとりの女子高校生だった。「もしや」という思いで足を止め、歌に耳を傾ける彼女。勘付かれたかと気づいた清水。歌い終わると案の定「依与吏さんですよね?」と問いかけられ、ここでライブは終了、のはずだったが、足を止めてくれた彼女のためにと、リクエストに応える形で清水はもう1曲“思い出せなくなるその日まで”を歌ったのだった。彼女が清水だと気づいたのは、やはりその「声」だったという。至近距離で、自分のためだけに届けられるその声──。その声に聴き入る彼女の表情がピュアでとても素敵だった。たったひとりではあるけれど、そこに歌を聴いてくれる人がいるということが、清水の歌の響きを変えたような気もした。

今あえて「back numberの清水依与吏」という看板を外し、名もなきひとりのミュージシャンとして路上ライブにトライすることにした清水依与吏の気持ちを思う。本来ならデビュー前に経験しておきたかったのかもしれないが、もしかしたら今、清水依与吏は自分の「歌」の力が、どれほど人の心を動かすのか、もっとダイレクトに感じたいと思っているのかもしれない。だからこそ、最新シングル“瞬き”にしても、壮大なテーマを持つ曲でありながら、まるですぐ隣で歌っているような、親密で切実な響きを湛えているのではないだろうか。機会があればぜひ、初回限定盤を入手して、このレアなドキュメンタリー映像を観てみてください。(杉浦美恵)

back number 清水依与吏の路上ライブの模様を「隠し撮り」
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