ユニゾン・斎藤宏介のボーカルは田淵智也の楽曲を聴く人の心に届ける一番かっこいい答えになっている

ユニゾン・斎藤宏介のボーカルは田淵智也の楽曲を聴く人の心に届ける一番かっこいい答えになっている
UNISON SQUARE GARDENが2018年、メジャーデビュー10周年を迎える。
元旦、その3週間後の1月24日に7枚目のアルバム『MODE MOOD MODE』をリリースすることを発表。4月からは、アルバム名を掲げた全国ツアーを11月まで開催。さらに、3月7日には、現在、アニメ『3月のライオン』第2シリーズ第2クールのOPテーマとなっている“春が来てぼくら”をシングルリリースすることも決定している。
まるで洪水のように一気にトピックを解き放ったユニゾン。今年は、これまでよりもさらに勢いを増し、ユニゾンらしくライブ三昧で疾走していく1年にしていこうという心意気が、まざまざと伝わってくる。

ユニゾンの楽曲はほとんどがベースの田淵智也が作詞作曲を手掛けている。そのソングライティングは、ユニゾンの楽曲をユニゾンたらしめている重要なものである。
しかし、メンバーもたまにインタビューやライブのMCなどで話しているが、ユニゾンの楽曲は難しい。テンポは早いし、音の数も多い。それを、斎藤宏介(Vo・G)、田淵、鈴木貴雄(Dr)の3人が、いとも簡単そうに(田淵は動き回るほどに)、歌って演奏する。その技量は、彼らのライブを観るとよくわかるが、すさまじいものがある。田淵は、ご存知のとおり激しく動き回って演奏するし、鈴木も手が2本とは思えない手数を叩く。そして、斎藤のボーカルとギターだ。前述したように、テンポは早いし音の数も多い上、歌詞も言葉数が多い。その曲を、ギターを弾きながら(それも超絶テクニックで)平然と歌うのである。

斎藤のすごいところは、本当に、なんでもないように、その普通なら難しい曲を弾きながら歌うところである。ギターも速弾きだし、歌も早口だし。それに加えて、例えば“天国と地獄”のようなテンションの上下が激しい曲や、同曲の《ご回答めしませ》の特徴的な歌い方など、普通じゃ何気なくなんか歌えない曲を、流れるように歌い、それをライブでも当たり前のように披露するのだ。

何度も前述しているとおり、ユニゾンの楽曲は難しい。そして複雑だ。田淵が楽曲を通して伝えたいこと、表現したいことが、はち切れんばかりに詰め込まれていて、一見早足で自分から通り過ぎていってしまうように思うが、それをリスナーの耳や心に留めているのは、やはり斎藤のボーカルだと思う。ものすごくエモく歌うとか、力を入れて歌うとかではなく、絶妙な温度感――常温で飲むと一番美味しいと感じるドリンクのような――で歌うのだ。田淵がひとつひとつ練り込んだ難解な楽曲を、丁寧にひもとくような斎藤のボーカルによる最適解によって、聴く人の耳や心にスッと置かれるような、そんな感覚。そして、淡々と、というと悪く聞こえるかもしれないが、本当に良い意味で淡々と歌っているからこそ、ライブでも変わらないクオリティで歌声が披露されるのではないか。そしてユニゾンをユニゾンたらしめている楽曲の魅力が、なんの混じり物もなくクリアに伝わるのではないか。
直近の楽曲だと“Invisible Sensation”の歌い出し《高らかに》が、その極みだと考える。まるで明け方に空気がサァっと一新されるような、そんな澄んだ声が耳と心にまっすぐに入り込んでくるのだ。

最近ふと思い立って、メジャーデビュー前のミニアルバム『流星前夜』と『新世界ノート』を聴いていた。同作には、メジャーデビューシングルとなった楽曲“センチメンタルピリオド”やその後の作品に再録される“箱庭ロック・ショー”、“フルカラープログラム”など、今や彼らのキラーアンセムとなった、そのデビュー前の音源が収録されている。
この2作を聴いていると、そりゃあ若さを感じるし10年前のものだから演奏の荒削り感は多少あるのだけれど、それはもちろん悪いものではなく、当時からユニゾンの楽曲の良さは変わらないということが改めてわかる。今でもライブで変わらず披露されるし、新録で聴いてファンになったリスナーも昔から聴いているファンも、同じように盛り上がることができるのだ。
そしてもちろん、10年という月日が経っているのだから、バンドのクオリティは上がっているし、同じ楽曲をやるにしても、もっと巧緻に無駄が省かれ、ストイックな今のユニゾンの音楽になっている。けれど、軸は変わらないのである。この2作を今聴いて、改めて感嘆したのだが、斎藤のボーカルは当時からすでにこのクオリティだった。もちろん現在の方がさらに磨きがかかっているのは火を見るより明らかだが、昔からこのハイトーンハスキーな声で、田淵作の昔からハイクオリティな楽曲を、やはり「スッ」と歌っているのである。当時より今の方が、それぞれの楽曲の色だったり深さだったりがもっと明確になっていると思うけれど、当時は当時なりに斎藤が、バンドが、一番ユニゾンのかっこいい部分を定義づけて、表現してきたと思う。それがずっと変わらないから、今も今の「ユニゾンの一番かっこいい」が表現されているのだ。それが「変わらない」の証明だろう。

ユニゾンの楽曲は毎回レベルアップするように、ロックでポップで軽やかな印象とは裏腹に、深く重くストイックになっている。それは、田淵をはじめとするメンバー全員が一番ユニゾンをかっこいいと思っているから。そのかっこいいの極限を突き詰めているからである。
今回のニューアルバム『MODE MOOD MODE』も楽曲群を聴くと、田淵の引き出しの多さと進化に驚くのだけれど、ユニゾンの今の最高値を表す作品だと思うと納得する。斎藤のボーカルもまた今まで以上にトリッキーに聴こえるが、リスナーにユニゾンの楽曲として伝えるという点に重きを置くと考えれば、やはりこれが斎藤にとっての最適解なのだろう。そしてそれがユニゾンの一番かっこいい答えなのだ。
これらの曲がまたライブで披露されていくだろうし、1月28日には幕張メッセという大規模な会場でライブも行われるが、どんなライブだろうと、どんなに大きなステージだろうと、ブレずに、UNISON SQUARE GARDENの一番かっこいい音楽が届けられる――そう信じて待つことができるのである。(中川志織)
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