“酸欠少女”さユり、新シングル『月と花束』で「空白」の先に描いた「生きている意味」の強さと眩しさについて

“酸欠少女”さユり、新シングル『月と花束』で「空白」の先に描いた「生きている意味」の強さと眩しさについて - 『月と花束』初回生産限定盤『月と花束』初回生産限定盤
“酸欠少女”さユりのニューシングル『月と花束』がいよいよ本日・2月28日に発売された。テレビアニメ『Fate/EXTRA Last Encore』エンディングテーマとして書き下ろされた表題曲“月と花束”は、昨年5月の1stアルバム『ミカヅキの航海』で自らの「第一章」を総括したさユりにとっての新たな幕開けの楽曲であり、人間と生命の核心に刻一刻と迫り続ける彼女の歩みの証でもある。

孤独と焦燥感に苛まれ、歌に救いを求めるしかなかったひとりの少女が、聴く者の心の「空白」をつなぐことで時代の救いになっていく――。『ミカヅキの航海』までのさユりが体現してきた奇跡的なサイクルは、ついには「さユりの空白」と「みんなの空白」そのものを核に据えたコンセプチュアルなホールワンマンライブ「夜明けのパラレル実験室2017〜それぞれの空白編『       』〜」(昨年11月24日/TOKYO DOME CITY HALL)へと結実する。

そして、2018年第1弾の新曲としてリリースされる“月と花束”。《花を焼べて 詩(うた)を焼べて/誰より険しく美しく/あの日の傷ももらった愛も/全て焼べて 光の方へ》と鮮烈なイメージを繰り広げるアコギ弾き語りの歌い始めから、紅蓮のロックアレンジとともに突き上げる《私が私から逃げたまま手に入る世界なら/もう いらないよ》、《迷いながら探していた ここに来た理由 など/作らなければないものだと やっとわかったから》といったキラーフレーズの数々まで、「欠落の表明」の地平を後にしたその先に「生きている意味」を自ら選び取ることの苦しさと尊さを指し示している。そんな楽曲だ。


「『生きている意味』って何だろう?って考えてたけど……『生きている意味』っていう空白があって、そこに自分で好きな色を塗ったり、好きな言葉を書いたりして、詰めていく作業なんだなって思いましたね。そこに自分で書かないと、たぶん空白のままなんだって思いました」
(『ROCKIN’ON JAPAN』2017年10月号)


欠落や喪失感など、ともすれば悲観的に捉えて袋小路に陥ってしまいかねない心的要因をも「自ら満たすべき空白」として鮮烈にネガポジ変換してみせたさユり。それは取りも直さず、自分自身の「空白」そのものと真摯に対峙し対象化した上で、その形や手触りをリアルな楽曲に昇華していったさユりのソングライティングと、そこに眩しいくらいの生命力を与えていく唯一無二のボーカリゼーションがあればこそ実現し得たものだ。

そして今、彼女の歌はさらに美しく荘厳に「生」を肯定しようとしている――ということが、現在発売中の『ROCKIN’ON JAPAN』最新号のインタビューからも伝わることと思う。

「あなたは宇宙初の、初めての物体なんですよ、っていう。他の人と似てる人間だけど、あなたは宇宙にひとつしかいない生き物なので。そこはもう、あなただけの正しさがあるっていうことを、どれだけ伝える歌が歌えるかっていうのが、今の自分のテーマかなって思いますね」
(『ROCKIN’ON JAPAN』2018年4月号)


自らが変わること/何かを置き捨てて忘れていくことへの不安を黙示録的に綴ったカップリング曲“レテ”(期間生産限定盤に収録)との対比から、まさに今こそ劇的進化の真っ只中にあるさユり自身のモードがくっきりと浮かび上がってくるし、今この時代を「その先」の景色へと導いていこうとする才気と決意を、この“月と花束”という楽曲は歴然と物語っている。(高橋智樹)
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