舞台全面を覆う透過スクリーン越しに語りかける“酸欠少女”さユりの言葉に応えて、3000人規模のTOKYO DOME CITY HALLを満たしたオーディエンスから高らかな拍手が巻き起こっていく――。
さユりのシリーズライブ「夜明けのパラレル実験室」の一環として開催された自身初のホールワンマンライブ、題して「夜明けのパラレル実験室2017〜それぞれの空白編『 』〜」。誰もが心に抱える欠落や喪失感を鮮烈な歌に昇華しながら、救いなき時代と向き合い道を切り開いてきたさユりの在り方を、改めて強く提示するような一夜だった。
“平行線”、“それは小さな光のような”、“フラレガイガール”といったシングル曲はもちろんのこと、シングルのカップリングとしてアコギ弾き語りバージョンのみ収録されていた“光と闇”、“スーサイドさかな”、“ネバーランド”、“プルースト”といった楽曲群、さらに“オッドアイ”、“るーららるーらーるららるーらー”など5月リリースの1stアルバム『ミカヅキの航海』からの楽曲も織り重ねながら、濃密な緊迫感と魂の開放感が混在するような独自のライブ空間を繰り広げていく。
そして、ライブ中に新たなデザインのポンチョ姿にチェンジして登場したさユりは、来年2月リリースの新曲“月と花束”をこの日いち早く披露。Wスクリーンを駆使したアニメーション映像演出とともに、満場のオーディエンスをその歌声で圧倒してみせた。
「埋まらない何かとか、無くしてしまったもの、手に入らないもの……それぞれの『空白』は目に見えないし、ひとりひとり違う形をしている。そして、その『空白』は、空洞は、とても大事なもののはずです。そんな違う形の『空白』を持つ私たちが、同じ音楽を聴きに――私は歌いに、演奏しに集まる。みんなの『空白』が、このライブの色になると思った。形になると思った。だから、こういうタイトルをつけました」……そのひと言ひと言に、誰もがじっと聞き入っていく。
「あと数十年もすれば、たぶんここにいる全員がいなくなって、違う形になって分解されて、宇宙を漂うでしょう。今、『私』っていう形で、ひとりの生き物として何ができるだろう? 何をしたいって思うだろう? ここにいるひとりひとりは、どんなふうに光るんだろう?――そんなことを思いながら、私は曲を作ったり、歌を歌ったりしています。次の歌は、私なりのラブソングです」
そんな言葉とともに歌われたのは、アルバム『ミカヅキの航海』の重要な楽曲“十億年”だった。《流された わたしたちは誰もが/なにかを失ってここへ来たらしい/0じゃなく空白をもって生まれたんだと》――そんなふうに冷徹に真実を射抜く歌が、やがて《わたしは/あなたは/この体は/巨大な巨大な奇跡だ》と観る者すべてを祝福するように力強く響く、至上の音楽空間がそこには広がっていた。
終演後ブログ