さユり/TOKYO DOME CITY HALL

さユり/TOKYO DOME CITY HALL - All photo by 北村勇祐 -Yusuke Kitamura-All photo by 北村勇祐 -Yusuke Kitamura-
「みんなの顔、見えるよ! たぶん、みんなも私のこと『ちょっと距離感じるなあ』と思ったり、私も幕あるから『みんなのこと見えるのかな?』とちょっと思ってたんだけど、今日すっごい見えとるよ!……なんで方言なんやろ?(笑)。すごい見えてます。ありがとう!」
舞台全面を覆う透過スクリーン越しに語りかける“酸欠少女”さユりの言葉に応えて、3000人規模のTOKYO DOME CITY HALLを満たしたオーディエンスから高らかな拍手が巻き起こっていく――。

さユりのシリーズライブ「夜明けのパラレル実験室」の一環として開催された自身初のホールワンマンライブ、題して「夜明けのパラレル実験室2017〜それぞれの空白編『       』〜」。誰もが心に抱える欠落や喪失感を鮮烈な歌に昇華しながら、救いなき時代と向き合い道を切り開いてきたさユりの在り方を、改めて強く提示するような一夜だった。
さユり/TOKYO DOME CITY HALL
スタンディングのアリーナも1階席〜3階席まである客席もびっしり埋まった中、ギター/キーボード/ベース/ドラム編成のガスマスク姿のサポートメンバーとともにさユりが登場、メジャーデビューシングル曲“ミカヅキ”へ。ステージ前面&舞台背後の2ヶ所にセットされたスクリーンにグラフィックやリリックを投影しながら、楽曲に歌い込まれた切実な世界観を複層的に浮かび上がらせていく。

“平行線”、“それは小さな光のような”、“フラレガイガール”といったシングル曲はもちろんのこと、シングルのカップリングとしてアコギ弾き語りバージョンのみ収録されていた“光と闇”、“スーサイドさかな”、“ネバーランド”、“プルースト”といった楽曲群、さらに“オッドアイ”、“るーららるーらーるららるーらー”など5月リリースの1stアルバム『ミカヅキの航海』からの楽曲も織り重ねながら、濃密な緊迫感と魂の開放感が混在するような独自のライブ空間を繰り広げていく。
さユり/TOKYO DOME CITY HALL
一面のクラップやシンガロングが巻き起こるような性質のライブでは決してないが、その歌が鳴り響いている間の張り詰めた切迫感と、楽曲が終わるたびに降り注ぐ熱い拍手からは、さユりの音楽が確かなコミュニケーションの場として機能していることがリアルに窺える。
そして、ライブ中に新たなデザインのポンチョ姿にチェンジして登場したさユりは、来年2月リリースの新曲“月と花束”をこの日いち早く披露。Wスクリーンを駆使したアニメーション映像演出とともに、満場のオーディエンスをその歌声で圧倒してみせた。
さユり/TOKYO DOME CITY HALL
ライブ終盤、「今日は《夜明けのパラレル実験室2017〜それぞれの空白編『       』〜》ということで。『空白』について、みんな考えたりした?」とさユりが観客に語りかけていく。
「埋まらない何かとか、無くしてしまったもの、手に入らないもの……それぞれの『空白』は目に見えないし、ひとりひとり違う形をしている。そして、その『空白』は、空洞は、とても大事なもののはずです。そんな違う形の『空白』を持つ私たちが、同じ音楽を聴きに――私は歌いに、演奏しに集まる。みんなの『空白』が、このライブの色になると思った。形になると思った。だから、こういうタイトルをつけました」……そのひと言ひと言に、誰もがじっと聞き入っていく。

「あと数十年もすれば、たぶんここにいる全員がいなくなって、違う形になって分解されて、宇宙を漂うでしょう。今、『私』っていう形で、ひとりの生き物として何ができるだろう? 何をしたいって思うだろう? ここにいるひとりひとりは、どんなふうに光るんだろう?――そんなことを思いながら、私は曲を作ったり、歌を歌ったりしています。次の歌は、私なりのラブソングです」
そんな言葉とともに歌われたのは、アルバム『ミカヅキの航海』の重要な楽曲“十億年”だった。《流された わたしたちは誰もが/なにかを失ってここへ来たらしい/0じゃなく空白をもって生まれたんだと》――そんなふうに冷徹に真実を射抜く歌が、やがて《わたしは/あなたは/この体は/巨大な巨大な奇跡だ》と観る者すべてを祝福するように力強く響く、至上の音楽空間がそこには広がっていた。
さユり/TOKYO DOME CITY HALL
さらに『ミカヅキの航海』のラストを飾る、シビアな視線とポップ感が共存する名曲“birthday song”で本編を締め括ってみせたさユり。アンコールでは舞台前面のスクリーンのこちら側にひとりで登場。カメラを手に客席を記念撮影した後、マイクなしの生歌&生音で“夜明けの詩”を披露。視界を遮るスクリーンも、音声を増幅する機材も一切介することなく目の前に存在する彼女が、何よりダイレクトな「一体感」をもたらしていた姿が、ライブの強烈な余韻とともに胸に残った。(高橋智樹)

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