「今のクリープハイプが一番良い」――尾崎世界観が多方面で発揮する才能がバンドを強く鋭くさせていることについて

「今のクリープハイプが一番良い」――尾崎世界観が多方面で発揮する才能がバンドを強く鋭くさせていることについて
5月11日に、約4年振りとなる日本武道館公演を敢行したクリープハイプ。その中でこの4年間を振り返りながら9月に新作アルバムをリリースすることを堂々と発表し、「今のクリープハイプが一番良いっていう自信があります。次のアルバムが本当に大事なもので、このアルバムを作るために色んなことがあったんだなと思ったら、全てチャラにできます」と言い切ったフロントマン・尾崎世界観(Vo・G)。

小説『祐介』とエッセイ集『苦汁100%』、『苦汁200%』の刊行、音楽番組以外にもバラエティ番組に出演やマンガ『たそがれたかこ』特装版に付属するCDへの楽曲書き下ろし、さらにFM802×TSUTAYAのキャンペーン曲“栞”の楽曲提供など、この4年で「バンド・クリープハイプ」のみならず「尾崎世界観」としての活躍もかなり多くなっている彼(先日とある文庫本を読んでいたら、解説ページに彼の名前があり「こんなところでも!」と思った)。私がクリープハイプを知った当初はその生々しい恋愛的描写に面食らったものだし、何より彼が紡ぎ出す言葉の選び方や組み合わせ方にえらく感銘を受けた。例えば寝癖だったりボールペンだったり、身に覚えのあるその気持ちをまさかそれに例えるか!という意外性を与えながらも、あまりにも身近なものが故にしっくりとくるそのハマり方が気持ちが良い。そんな彼の言葉選びのセンスは表現先が「歌詞」から「文章」になろうと健在だし、今も昔も変わらずにクリープハイプのアイデンティティの大骨であることは間違いない。

とはいえ、武道館公演中に“栞”の話になった際に自分が作った曲にも関わらず「バンド以外のところで盛り上がっている」とぼやいていたことからも伝わるように、彼個人の活動は「クリープハイプがバンドとして生きていくために必要な過程」であることが大前提であり、バンドが最優先事項であることは変わらない。そして現在の4人になって約9年、レーベル移籍など様々な困難に直面してきた彼らは、荒波に揉まれて丸くなるどころか尖り続けているのだから凄い。この「尖っている」というのは、ただ単に悪態をつくとか世の中を蔑むとかの意味合いではなく、「人間が抱く、自分自身で覆い隠してしまいがちなヘイトな感情を突く」という意味での鋭さだ。「言わなくても良い事」というのは「言わなければ自分が平穏でいられる事」とほぼ同義で、クリープハイプはそのゆるりとした場所でまどろむことをせずに、それらの感情に対して真摯に向き合い虎視眈々と歌い続けてここまで歩んできたバンドだ。だからこそ、そんな彼らが「今の自分たちが一番良い」と言うその言葉を待ち望んでいたし、ここから始まる彼らの新たな歴史の幕開けに胸が躍ってしょうがない。

2016年にリリースされたアルバム『世界観』から約2年。新作についての詳細はまだ発表されていないが、彼らが経験してきた酸いも甘いも紆余も曲折も全部ひっくるめた「色んなこと」が今作にぎゅっと詰まっているのだと思うと、一体どんな作品になるのか到底想像がつかない。未曾有の事態に直面する前特有の高揚感を胸に、続報を心待ちにしている。(峯岸利恵)

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