インターポール、独占インタビューを奪取! ついに新作リリースの彼らが「旅」で得たインスピレーションとは? ダニエル・ケスラーにすべてを訊いた


ザ・ストロークスLCDサウンドシステムらと共に2000年代のニューヨーク・シーンに登場し、以来20年近くにわたって第一線で活動を続けるロック・バンド、インターポール。通算6作目となる4年ぶりのニュー・アルバム『マローダー』は、そんなかれらのキャリアにおける新たなピークを告げる作品――そういっていい。その“お膳立て役”を務めたのは、今回かれらが約10年ぶりのプロデューサー起用として迎えたデイヴ・フリッドマン。さらに、ソウルやR&Bのクラシック、あるいはミーゴスや21サヴェージといったヒップホップにインスピレーションを得てバンド・アンサンブルを活性化させることで、インターポール史上もっともグルーヴィでライブ・フィーリングに溢れたサウンドを作り上げている。そして、「略奪者」を意味するアルバム・タイトルやアートワークをはじめ、現在のアメリカの政治情勢とリンクしたテーマやメッセージ性も、今作の見逃せない大きなポイントだろう。

今作がリリースされた3ヶ月後の11月には、じつに13年ぶりとなる単独での来日公演の開催が決定。デビュー・アルバム『ターン・オン・ザ・ブライト・ライツ』(2002年)の再現ライブに加えて、今作からの新曲を含むグレイテスト・ヒッツを披露する2部構成で行われる予定だという。プロモーション来日したダニエル・ケスラー(G/Vo)に話を聞いた。

インタビュー:天井潤之介


●ニュー・アルバム『マローダー』を聴かせていただいて、今作はインターポール史上、もっともダンサブルで、かつライブのフィーリングに溢れたアルバムであるという印象を受けました。今作の制作に臨むにあたって、もっとも重要なポイントを置いていたところとは?

インターポールは制作を始める前に何度も話し合いを行うバンドじゃないんだ。とにかく実行が先行する。ただ、僕たちは計画を立てないが、セッションを繰り返していくうちに、曲に何が起こっているのかを感じ取ることができる。早い段階からわかっていたことは、曲にはエネルギーがあり、ライブ感があるということだった。けれど、それは話し合って作ったものではなく、曲を演奏していくうちに表れてきたエネルギーで、つまり曲にある切迫感や即時性をレコーディング・スタジオで捉えることが大切だった。

●今作のプレスリリースには、制作にあたってドラマーのサム(・フォガリーノ Dr)がソウルや80年代のR&Bに没頭していたことが影響を及ぼしたというエピソードが記されています。ちなみに、先日電話でインタビューする機会があったポール(・バンクス Vo/B)は、21サヴェージやミーゴスといったヒップホップ・アーティストが刺激になったとも話してくれました。あなたの場合はどうでしたか。

僕にとってインスピレーションとなったのは音楽ではなく、旅先で得た経験の方が刺激になっていると思う。アルバムの制作中は生活の半分をニューヨークではなくスペインで過ごし、作曲の多くもスペインで行った。僕は旅をするのが好きだから新しい土地に頻繁に行ったんだ。そういう経験からインスピレーションを得ている。あとは映画だね。初期のインターポールの曲も、僕が朝、映画を見て、刺激を受けて作曲して出来上がったというものが多い。映画の内容というよりは、ビジュアルの要素にインスピレーションを受ける。だから僕にとっては旅と映画が一番のインスピレーションだ。

●映画といえば、ジェラルド・ナランジョ(※ドラマシリーズ『ナルコズ』、『ザ・ブリッジ』etc)が監督した“The Rover”のMVも印象的でした。ちなみに、今作の制作に関しては、プロデューサーとしてデイヴ・フリッドマンが起用されていることもトピックのひとつですね。

プロデューサーと仕事をする以前に、僕たちは自分たちのソングライティングに満足していた。だから今回も自分たちでプロデュースしてもいいと思ったけれど、プロデューサーに参加してもらったらより良い曲になって、より良いアルバムになるかもしれないと思い、その考えを取り入れた。そして、デイヴ・フリッドマンの名が挙がり、彼だったら面白いことをしてくれそうだと興味を持った。彼は、MGMTザ・フレーミング・リップステーム・インパラマーキュリー・レヴモグワイスプーンといったアーティストの素晴らしい作品を手がけてきたが、アプローチが毎回異なるから、それらのバンドには全く違う響きがある。そんな彼がインターポールのアルバムを手がけたらどんなサウンドになるだろう?と思ったんだ。

●なるほど。

彼とは一度も会ったことがなかったから、ワクワクすると同時に少し不安だった。けれど、電話で何度か話をしたら、彼と僕たちには共通する感性があるとわかり、その後、彼に曲を送った。それを聴いた彼は、バンドの方向性を気に入ってくれた。彼は本当に俺たちのやりたいことを理解してくれて、バンドのエネルギーや曲の切迫感をどのようにしてアルバムに捉えれば良いのかという点において素晴らしい提案をしてくれたよ。



pic by Jamie James Medina

●一方、今作はアルバムのテーマやリリックの内容とリンクするように、ウォーターゲート事件の捜査の際にニクソン大統領に背いて解任された司法長官エリオット・リチャードソンの写真が掲げられたアートワークが目を引きます。この写真を選んだ理由、また、このアートワークを掲げることによって喚起させたかったメッセージとは?

第一に、写真はゲイリー・ウィノグランドという20世紀後半における偉大な写真家のものであるということ。僕は彼の作品がすごく好きで、自宅に彼の写真集もある。数年前、ニューヨークの近代美術館でやっていた彼の回顧展にも行った。素晴らしかったよ。第二に、エリオット・リチャードソンの写真を僕たち3人が見た時、3人とも強い反応を示したということ。そして第三に、この写真はアメリカの歴史における重大な瞬間を表している。特別検察官を解雇しろというニクソン大統領の命令に背いたエリオット・リチャードソンが辞任するという場面だ。なぜならエリオット・リチャードソンはアメリカの国民に誓いを立てた上で国政に取り組んでいたから。ニクソン大統領の命令に従うのは、その誓いに背くことになる。だから彼は大統領の命令に背き、あの場所に座って辞任している。アメリカ史における非常に重要な瞬間だ。この後にウォーターゲート事件の真相が明らかになり、リチャード・ニクソンの辞任に至る。

●はい。

この写真からは様々なことを感じ取ることができる。非常に強い信念に基づいた、強烈な瞬間を捉えた一枚。僕たちはそれに敬意を払うと同時に、このような状況にインスピレーションを受ける。アメリカの現在の状況に照らし合わせてみても、特別検察官が捜査をしているところなど、不思議と似たような状況だ。それが今後どんな方向に行くのかはわからないけれど、とにかくこの写真をアルバムのアートワークに選んだ理由はたくさんある。偉大な写真家の作品であること、強烈な絵であること、そして重要な瞬間を写真で捉えたものだということだね。


●ありがとうございます。では、ここまでの話を踏まえたうえで、今作のなかでセルフレコメンドしたい3曲を選んでいただき、それぞれについての解説をぜひお願いします。

まずはアルバムの最初の曲“If You Really Love Nothing”。今回のアルバムに向けて最初に書いた曲だ。僕が作ったコード進行をポールに聴かせて、曲の方向性を示したら、彼がベースを弾き歌い始めた。その時、曲が思いもよらなかった方向に進んだ。彼は高い声でファルセットで歌い、まるでザ・ビーチ・ボーイズみたいな響きだった。意外でエキサイティングな瞬間だった。そしてサムがドラムを合わせたら、曲がさらに進化した。曲の方向性が変化していくという面白い瞬間だったよ。インターポールの曲は本当にたくさんの可能性を秘めているのだなと実感した瞬間だった。これはアルバムの中でも大好きな曲だし、僕たちの作品の中でも大好きな曲だ。

それから“Stay in Touch”。ムードが強く感じられる曲で、僕の心の芯に語りかけてくる曲だ。ギター・ラインやバースの間の進行などを考えている時に、自分を追いやってハーモニーの構成を作ったから、かなり野心的だったという記憶がある。スタジオでバンド・メンバーと一緒に曲を仕上げている時も、曲が自分のイメージした通りに仕上がるかわからなかったけど、バンドのまとまりも良く、いい仕上がりになった。ベースとドラムが入ってくる時は特有の雰囲気が出ていて、夜向けの曲だということが感じられる。そこにポールが書いた素晴らしい物語が乗る。大好きな曲だ。深いところを突いてくると思う。

そして“Number 10”はとても楽しい曲だった。もともとアルバムに収録する予定ではなかったら、レコーディングもサクッとやる感じで、B面になる曲だと思っていた。けれど、できあがった曲が楽しい感じだったから、追加の曲としてではなく、アルバムに入れる曲として捉える方が正しいと思えてきたんだ。ポールは最後までこの曲の歌詞を書いていなくて、ミキシングする直前に歌詞を書いた。この曲に関してはスタジオで偶然できた産物なんだけど、その瞬間は僕たちにとってエキサイティングな瞬間だったし、偶然にできた曲でもアルバムに載せないわけにはいかないと3人とも思った。


●さて、この11月には、単独としてはじつに13年ぶりとなる来日公演が控えています。しかも、『ターン・オン・ザ・ブライト・ライツ』の再現ライブに加えて、今作からの新曲を含むグレイテスト・ヒッツを披露する2部構成になるということですが、その見どころを教えていただけますか。

今回のツアーで『ターン・オン・ザ・ブライト・ライツ』を通しでやるのは、 今のところ日本しか確定していない。日本のファンに向けて何か特別なことをやりたいと思ったから、今回の公演にアルバムの再現ライブも含めることにしたんだ。他の公演と違うしエクスクルーシブなものになる。そして今作からの新曲も演奏する。新曲はライブで聴くと最高だ。また、過去の作品からも、時間の許すかぎり演奏したいと思う。日本で公演をするのは僕にとってとても重要なことなんだ。だから日本での公演が決まって嬉しいよ。たくさんの人が来てくれることを願っている。

●『ターン・オン・ザ・ブライト・ライツ』はインターポールの始まりを刻んだ作品であり、バンドの代表作にして、2000年代のロック・シーンを代表する一枚でもあります。あのアルバムの楽曲を今の自分たちが演奏するというのは、どんな感情が湧き上がってくる体験なのでしょうか。

あのアルバムを作った時、「このアルバムで今後一度も後悔したくない、ずっと近くに感じていたい」と思ったのを覚えている。そして、去年の『ターン・オン・ザ・ブライト・ライツ』の再現ライブでは、ファンが予想以上にあの作品に情熱を感じていてくれたのが驚きだったね。そして面白かったのは、観客の中には、アルバムが出た頃にはまだ生まれていなかったかもしれないティーンエイジャーの子達もいたし、アルバムが出た頃から支持してくれている40代くらいの人もいたこと。それは特別な瞬間だった。インターポールのアルバムは、昔の作品をライブで演奏しても、あまり違和感がないと思う。インターポールのサウンドにはある程度の一貫性があると思うから。だから、今あの作品を演奏しても、当時と同じような感情を込めて演奏することができるんだ。


来日公演、リリース情報の詳細は以下。


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