音楽評論家、大鷹俊一による短期連載コラム最終回:ジミヘン 『エレクトリック・レディランド』50周年記念盤にさらに迫る!

音楽評論家、大鷹俊一による短期連載コラム最終回:ジミヘン 『エレクトリック・レディランド』50周年記念盤にさらに迫る! - (c) Authentic Hendrix, LLC(c) Authentic Hendrix, LLC

1968年に発表されたザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス『エレクトリック・レディランド』の50周年記念盤が、11月9日にリリースされた(国内盤は11月21日に発売)。

このリリースに合わせ、これまでにジミ・ヘンドリックスの国内盤CDのライナーノーツを数多く手掛け、ジミ・ヘンドリックスに関する著書も発表している音楽評論家、大鷹俊一氏による短期連載コラムが到着した。

第4回(最終回)「ジミがかけた新たな魔法」は以下の通り。



第4回(最終回)『ジミがかけた新たな魔法』

『エレクトリック・レディランド50周年記念盤』の目玉の一つがDISC4のBlu-rayだ。テレビ・シリーズ<クラシック・アルバム>で作られた『アット・ラスト・・・ザ・ビギニング:ザ・メイキング・オブ・エレクトリック・レディランド』は、改めて言うまでもない古典&定番の必見映像(今回は86分のデラックス・ヴァージョン)。オリジナル・マスター・テープを駆使してエディ・クレイマーがサウンド作りを楽しそうに解説する姿に始まり、チャス・チャンドラーやミッチ・ミッチェル、ノエル・レディング等々、鬼籍に入ってしまった人たちの生々しい話など、何度見ても新発見がある。

そんな本ディスクのハイライトは、3種のハイレゾ音源だ。[非圧縮LPCMステレオ 96kHz/24bit]、[非圧縮 LPCM 5.1サラウンド 96kHz/24bit]、[DTS-HD マスターオーディオ 5.1 サラウンド96kHz/24bit]で、とくにエディ・クレイマーが手がけた5.1chには待望感もあったし、期待値も思いっきり高かったのだが、それをはるかに越えたレベルでの拡大していく音世界に、改めて圧倒された。まさにジミ新体験だ。

音楽評論家、大鷹俊一による短期連載コラム最終回:ジミヘン 『エレクトリック・レディランド』50周年記念盤にさらに迫る!

前作『アクシス:ボールド・アズ・ラヴ』あたりから顕著なようにスタジオでの実験に激しい意欲と情熱を傾けてきたジミは、ニューヨークの最新スタジオでさらにそののめり込み方が激しくなり、多数のアイデアやプレイが膨大なテープに残されることになったわけだが、そのとき一緒に作業していたジミとエディの脳裏に浮かんでいたのは、こうした音だったという。

エディはブックレットの中で「『エレクトリック・レディランド』を5.1サラウンド・サウンドでミックスするのは、長年の夢だった。ジミと私が1968年にやろうとした冒険的試みにぴったりのサウンドだという気がしていたからだ。(中略)今回の5.1サラウンド・ミックスにジミが手を貸してくれたのは間違いない。心からそう思う。“ジミはこうしたいと思うか?”と常に自問しながら作業を進めた。(中略)“ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)”の最初のサラウンド・ミックスを完成させたとき、心の底から興奮がわき上がってくるのが手に取るようにわかった。それは文字通り、圧倒的なエクスペリエンス(経験)だった」とコメントしている。

“ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)”をサラウンドの基準にしていったそうだが、それはまさにジミとエディがスタジオで、当時の機材やテクノロジーでは不可能なサウンドを求めていた光景が現実化した瞬間であったわけだが、それは実際に体験するとよくわかる。宇宙的なスケールで自らの中で鳴っている音を発信したいと願い続けていた50年前のジミの願いは、技術が切り開いたフィールドによって新たな生命を得ているわけだ。

またステレオ音源にしても、非圧縮(uncompressed)と強く謳っているとおり、各楽器の抜け感が非常によく、まさにスタジオでジミたちがプレイした感触が身近に迫ってくる。

オリジナルの『エレクトリック・レディランド』は、ジャケットも本コラムの最初に書いたようにアーティストの意向を無視したものだったが、サウンドもジミとエディによるファイナル・ミックスまでは完璧だったが、マスタリングとプレスの段階で台無しにされたとかつては言っていた。当時の再生環境の中で起こったことで、それはCD化などの段階で解消されていったわけだが、今回のハイレゾによって、また一つレベルが上がり、より深い領域での楽しみが広がった。

スタジオの生々しい音を聴いていると、ホントに新作がいつか聴けそうな気さえしてくるのが不思議な感触だが、それはジミ・ヘンドリックスがかけた新しいマジックなのかもしれない。(大鷹俊一)



『エレクトリック・レディランド 50周年記念盤』の詳細は以下。


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音楽評論家、大鷹俊一による短期連載コラム最終回:ジミヘン 『エレクトリック・レディランド』50周年記念盤にさらに迫る! - 『rockin'on』2018年12月号『rockin'on』2018年12月号
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