NHK特番『星野 源スペシャル』のライブ&インタビューで明らかになった「ポップ」の真実

「みんな、またいつか、いろいろあるけど、会えたら、笑顔で会いましょう」
“Hello Song”のアウトロでこう語りかけ、約5万人の拍手を手を広げ全身で浴びている星野源の姿に神々しさすら感じてしまった。それは、照明や衣装によってだけで見えたわけではもちろんなく、番組のインタビューによって純粋に「自分が良いと思う音楽を世間の真ん中で鳴らしたい」という一番難しいことを、真摯に、真面目に、まさに身を粉にして取り組んできた姿勢が伝わって来たからこそ、そう見えたのだと思う。

3月25日に放送された『星野 源スペシャル〜 POP VIRUS ライブ&インタビュー〜』(NHK総合)では、「星野源 DOME TOUR 2019『POP VIRUS』」の東京ドーム公演から数曲のライブ映像と、ツアーを終えた直後の星野のインタビューがオンエアされた。

ツアーで1曲目に選んだ“歌を歌うときは”は、星野が初めてソロアーティストとして行ったワンマンライブの1曲目。インストバンドが本業である、とどこか言い訳をしてやっている状況の「歌うこと」に対して、「まっすぐちゃんとやりたい。歌を歌うんだ、俺は」という気持ちを歌にしたという。《歌を歌うときは 背筋を伸ばすのよ/想い伝えるには 真面目にやるのよ》と、自身に言い聞かせるように歌われる星野の「歌」に対しての、当時から変わらない決意のような歌詞。ここから始まるドーム公演自体について歌われているようにも聴こえた。

インタビューでは音楽家・星野としての特に創作部分に絞って深く語られていた。アルバム『POP VIRUS』には、星野のアルバムで一番と言っていいほど「愛」という歌詞が出て来る。人の「陰」の部分を映した歌詞も多いが、どの曲も今の一瞬や未来に目が向いている曲になっている。2017年が星野にとってしんどい1年であったことはすでに様々な場所で本人から語られているが、そこを経て作られたアルバムにそういった歌詞が多くなったことについて「クソですよね~みたいな歌詞を書いてみるんですけど、なんか面白くないんですよね」、「本当にクソみたいだよねっていう中にある愛みたいなものを描くのが、僕にできる歌なんだな」という答えに辿り着いたという。前作『YELLOW DANCER』が日本の風景や景色が歌われた歌詞が多かった中で、今作は人の心や人間臭さを感じるものが多くなった印象だった。なぜ、そこに辿り着いたか。そこには「自分に酔っている人が嫌い」という音楽観・人生観が影響しているという。「そりゃあ傷ついたけど、それを歌にしてお金をもらって聴いてもらうってなんかおかしくない?っていう感じがある」。うんざりしてるんだけど、ちょっと楽しいところ行きたいな、というそんな気持ちをそのままアルバムに出来た感じがあると語った。

ライブについても語られ、中央のセカンドステージでリハーサルスタジオと同じように、観客に背を向けて演奏した演出について、みんなで笑っているのが演奏のグルーヴになったりするリハの幸福な時間をお客さんと共有できた理想の音楽像であり、これからもやっていきたいと語った。河村“カースケ”智康とSTUTSによる対決や、なぜかドラム横にあったバナナについて曲中に触れたり、映像が見れた場面だけでもどれだけフリーな演奏だったかがわかる。『おげんさんといっしょ』にも通ずる、星野にしかできないドーム公演での演出だったといえるだろう。

SAKEROCKを結成したときから思い続けているという、たくさんの人に音楽を届けたいという意志。「通好みの音楽だけにはなりたくない。なぜなら、通好みの音楽は本当の通は聴かないから」。星野の音楽はこれまでもずっと、自身の思いやこだわりを入れ込みながらも、より多くのリスナーに届けるべく音楽を作り活動してきた。その結果、5大ドームツアーであそこまで一人一人との距離が近いライブが実現できた。インタビューの節々から、今回のドームツアーが星野にとって充実した時間であり、手応えを得て「ゴールテープを切ることができた」というのが伝わってくるインタビューとライブ映像だった。(菊智太亮)
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