なぜアジカン、そして後藤正文は若者たちに「道」を作り続けるのか?

なぜアジカン、そして後藤正文は若者たちに「道」を作り続けるのか?
20年以上にわたって常に音楽シーンの真ん中で存在感を放ち続けているASIAN KUNG-FU GENERATION。その勢いは衰えることなく、彼らはバンドとして成熟しながらも時代に応じてサウンドをアップデートし続けている。アジカンがこんなにもリスナーに対して訴求力を持つのは、後藤正文(Vo・G)が若者に対して期待を寄せ、その期待を音楽活動を通じて表現し続けてきたからなのだろう。後藤がどのような思いで若者に「道」を作り続けているのか、インタビューの発言から紐解きたいと思う。


ブレイク直後から向き合っていた音楽は「巡る」ということ

音楽ってすごく巡ってると思っていて。僕らが今やることって、たとえば10年後とかの音楽シーンにとって大事だったりするわけですよね。今、中学生や高校生で聴いてる人たちにどういうものを届けるかっていう作業を誰かがやらないといけないと思うんですよ。僕らの場合だと、ユニコーンだったりを聴いて音楽に入って。そこから洋楽も聴いたりとかして、バンドをやろうと志したみたいなところがあるから。そういう存在になりたいなっていうのがやっぱりありますね(『ROCKIN’ON JAPAN』2004年6月号/“ループ&ループ”)

1stフルアルバム『君繋ファイブエム』でブレイク後、アジカンがリリースしたのが、4thシングル『ループ&ループ』だ。バンドとして勢いに乗り始めた時期だと思うが、後藤はとても冷静にアジカンを客観視していた。この頃から、音楽シーンにおける自分たちの存在意義を考え、若者にどのような音楽を届けるべきかという課題と向き合っていたのだ。
2010年には、国やジャンルにとらわれずに様々な音楽を届けるために、自らレーベルを立ち上げた。アーティストのやりたいことをできる限り叶えたいというポリシーのもと、多様な音楽を世に届けることに尽力している。所属するアーティストのプロデュースを積極的に行っているのも、アジカンとしての成功だけではなく、音楽業界全体を盛り上げていきたいという思いがあるからなのだろう。


震災を経て強まった未来の社会への大人としての役割

僕たちも30代で、気合い入れてここ10年、20年どう社会と関わっていくのかも含めて考えていかなきゃいけないんじゃないかと思ってるんですよね。そういう中、若い子たちに期待したいっていうのがある、やっぱり。それは別になすりつける訳でもなくて、やっぱり今10代の子とかが二十歳までに何をするかっていうのもね、ユースカルチャーになってカルチャーになって空気を変えていくものであるから。自分も30になってみて、パッと動こうと思ったら今まで考えてきたこと、やってきたことしか足しになんないから。(『ROCKIN’ON JAPAN』2012年1月号/“マーチングバンド”)

やっぱりなんか、僕たちが今抱えているのは空洞だと思うんですよね。どっかにむなしい、からっぽの穴があって、社会の中に。たとえば責任者が誰かわかんないとか、そういうのも含め、真ん中がない。誰しもがそれぞれ自分の心の中にぽかって穴があって。それを映すように、社会の真ん中にもぽかっと穴があるっていう。でもこれを僕らがジジイになって死ぬまでに埋めていけたら、きっと後ろに続く人たちにとっては、豊かな社会っていうか。文化も音楽も含めね。ゆっくり埋めていって、みんなでやさしく笑い合う、そういう瞬間が来たらいいなって。(『ROCKIN’ON JAPAN』2012年10月号/“バイシクルレース”)

後藤は東日本大震災の被災地を訪れた際に、アジカンというバンドが若者にどれだけの力を与えているかを実感したそうだ。“マーチングバンド”のインタビューからも読み取れるように、震災以降の作品には若者に対する期待がより一層反映されている。特に7thアルバム『ランドマーク』には、東日本大震災を通じて感じ取った様々な思いが込められている。《行き詰まった現在の僕らにだって/振り向けビーナス/いつかはこの空洞を埋めるように/微笑み合いたいな》、《走り出して数分の彼にだって/振り向けビーナス/いつかはこの空洞を埋めるように/微笑み合いたいな》という“バイシクルレース”の歌詞には、今がどんなに困難な状況であっても、豊かな社会を実現して次世代につなぎたいという強い意志が表れていた。
同時に、無料で配布される新聞『THE FUTURE TIMES』の創刊など、大人としてどう振る舞うべきなのか、後世に何を伝えるべきなのかということと誠実に向き合い、音楽以外の表現活動も精力的に行うようになった。


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