なぜアジカン、そして後藤正文は若者たちに「道」を作り続けるのか?

ネット社会に埋もれてしまう「何者にもなれない」子たちへ

どいつもこいつも「アイドルになりたい」みたいな時代でしょ。「ユーチューバーになりたい」「ボカロPになりたい」、でもほとんどの子が何者にもなれないというか。いろんな場所でけしかけられて傷付いてく子たちのこと好きだなと思っちゃって、書きたくなっただけなんですけどね。「悪くないよ、そんなに」みたいな。ツアー中に寂れていく地方の街とかを見ながら、どうやったらその子たちに「悪くないよ」って曲だったり、あるいは社会的な何かをパスできるかなっていうのがずっとあって。どうしてそうなのかっていったらすごく難しいんだけど、アジカンも含めて思ってきたこと、感じてきたことがバチッとなった気がしました(『ROCKIN’ON JAPAN』2016年9月号/ソロ2ndアルバム『Good New Times』収録曲“Baby, Don't Cry”)

今がどのような時代であるかということを、後藤はいつも的確に捉えている。スマホ1つあれば誰しもが自分という存在を世界に発信できる世の中だからこそ、その多くが埋もれてしまうのは事実だ。アイドルを目指すとは言わないまでも、SNSの「いいね」にこだわり、数が少ないと自分自身が認められていないかのように感じてしまう若者も少なくないはずだ。後藤は、世間の評価に惑わされて「何者にもなれない」子たちにそっと寄り添い、《悲しまないで笑ってよ》と歌った。この曲を通して、努力ではどうにもならないことについて悩む必要はなくて、無理に誰かになろうとせずに自分を生きればいいのだと教えてくれた。


“荒野を歩け”“解放区”ーー不確かな道を力強く照らすアジカンの今

自分たちの若い頃に向けてかもしれないし、あるいは今を生きる若い子たちに向けてかもしれないけど、そういうエールももちろんたくさん込めてます(『ROCKIN’ON JAPAN』2017年5月号/“荒野を歩け”)

“荒野を歩け”は映画『夜は短し歩けよ乙女』の主題歌ということもあり、上質な青春賛歌として多くの若いリスナーの心に響いたはずだ。漠然とした不安や悲しみを抱くことを肯定し、迷いながら未来に進む私たちの道標となるような曲であった。しかし言うまでもないが、若者へのエールが込められた曲は“荒野を歩け”に留まらない。25thシングル“ボーイズ&ガールズ”では、《夕闇が背中から忍び寄って 君を捕まえて/「あの娘がうらやましい」/「アイツが妬ましい」とか こぼして/彼らと馴染めなくても》と、青年期に特に感じるであろう、周りと自分を比べることで湧き上がる焦りや嫉妬の感情を見事に描写し、《何かが正しい 僕らに相応しいこと 見つけて/それをギュッと握りしめて》と背中を押した。ドラマチックなアレンジとコーラスワークで高らかに自由を歌い上げる最新曲の“解放区”からは、これからの社会を担う若者に向けた、自分たちの時代を思う存分楽しもうではないか、というメッセージが感じ取れた。


また、アジカンリスナーに対してはもちろんのこと、若手アーティストに対する支援も積極的に行なっている。後藤はプライベートスタジオ「コールド・ブレイン・スタジオ」を、気になった若手アーティストに無償で貸している。その際、レコーディングに携わることで、自分とは異なる音楽制作のアプローチを謙虚に学び、経験値として蓄積しているのだ。
2018年に立ち上げた「APPLE VINEGAR -Music Award-」は、新人アーティストのアルバムに贈られる作品賞で、リスナーが新しい音楽と出会うきっかけになるように、という思いが込められている。そして受賞者には、今後の音楽制作をサポートする賞金が贈呈される。

後藤は常に自分の作品や振る舞いが世の中にどのような影響を及ぼすのかを考え、若者が希望を持って生きていけるように、大人がどうあるべきかを行動で示し続けてきた。その姿は確実に若者の目に留まり、新しいファンを獲得し続けている。これからもアジカンの作品に励まされ続けながら、いつかこの受け継がれた思いを私も次世代へ繋げていきたい。(有本早季)
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