9月18日にNHK Eテレで放送された、『“シュガー&シュガー” サカナクションの音楽実験番組』第1回。音楽にまつわる様々な要素について、山口一郎(Vo・G)ならではのアプローチで挑む「楽しい映像オムニバス」2週連続放送の初回ということで、どんな実験が行われるのかわくわくしながら番組を観た。
まず開始早々登場した山口の扮装のインパクトがすごい。後々、『日曜洋画劇場』のパロディだということがわかるが、一切説明がなく進んでいくのでとてもシュール。このままユルくおもしろバラエティが始まるのか?という思いは束の間、音楽のプロたちによる本気と遊び心に溢れた映像が続々登場。音の不思議と楽しさを再確認する30分であった。
前述の『日曜洋画劇場』をもじった「選曲家劇場」のコーナーでは、サカナクションのMVも数多く手掛ける田中裕介監督による短い映像に、各フィールドのトップたちが思い思いのBGMをつける。同じ映像でも音楽が変われば、がらりと違うストーリーが動き出すことがわかる。音楽が持つ時代性・物語性を意識させられて興味深く、NHK音響デザイン部・副部長の山田正幸やサカナクション・岩寺基晴(G)をはじめ、錚々たる選曲家たちの個性が感じられておもしろかった。
今年3月に惜しまれつつも終了した『サカナクションのNFパンチ』(スペースシャワーTV)のスタッフも関わっているそうで、当時からお馴染みのコーナーもパワーアップして展開。「音楽実験」中以外はBGMも効果音もほぼなしで進行する潔さもたまらなかった。鳴るのは実験のための音だけで、結果、音楽が持つまっさらな力そのものを浮き彫りにしたように思う。背景に愉快な音楽が鳴っていたらそれこそ「ユルいバラエティ」になってたかも、と思うと同時に、いかに自分が音楽に影響を受けているか気づく。音楽実験、奥深い。
また、実験の合間にはゲストに妻夫木聡を迎えての真剣なトーク。お互いの仕事について真摯に語り合い、山口が妻夫木に初めて買ったCDについて尋ねる場面では、妻夫木の『刑事貴族(でかきぞく)』発言をスマホで調べずにいられない山口がなんだか可笑しく、そういう人間ぽい一面が垣間見えたのも良かった。妻夫木は、デジタルが進化した先には役者は必要ないのでは?という仮説を立てていたけれど、音楽も芝居も、やっぱり人間が作ってるんだよなあということを改めて考える。音楽や映像にはこうした人間同士のやり取りや感情の機微が重なり合い、溶け合っているからこそ、様々な物語を想起する力があるんじゃないかと、そんなことを思った。
それこそ、『“シュガー&シュガー”』という番組タイトルは、「普段は音楽の中に溶けてしまっている、懐かしさや新しさに気づいてもらいたいという気持ちが込められています」とのこと。次回はどんなシーンに溶け込む音をあぶり出すのだろうか。妻夫木とのトークの舞台となったおでん屋のセットのおしながきに「文化」とか「伝統」とか書いてあったのも気になる。更なる実験の可能性を感じつつ、第2回も楽しみ。『NFパンチ』ファンならピンとくる、「シュガシュガ将棋」ほかをお届けするそうです。放送は9月25日(水)、22時50分から。(徳永留依子)
サカナクションの音楽実験番組、音のふしぎを可視化する音楽家の本気を見た!
2019.09.24 17:00