ムービー内のポイントとしてまず第一に挙げられるのは、くるりの“ばらの花”、サカナクションの“ネイティブダンサー”という日本を代表する2組のロックバンドの名曲を大胆にマッシュアップした、新発想の音楽だろう。“ばらの花”も“ネイティブダンサー”も、双方のバンドにとっては長らく親しまれてきた、言わずと知れた代表曲だ。けれども両曲ともに打ち込みの使用やミドルテンポの曲調といった共通項は存在するにしろ、元々くるりとサカナクションはサウンド面で少しばかり趣を異にするバンドであることや、ライブでの共演もほぼ無かったりと、かねてよりバンドについての造詣が深いファンであればあるほど、この2組の起用はある種意外な組み合わせでもあったように思う。しかしながら、一聴した瞬間、誰もが心底驚くに違いない。なぜならマッシュアップの果てに出来上がったその楽曲は、音源化されていない現状にやきもきしてしまうほどに、いち企画として産み出された代物とは到底思えない完成度を誇っているからだ。
原曲においても印象的だったピアノパートは幾分か主張を強めて全体を牽引する役割を担い、楽曲はゆったりとした滑り出しから徐々に熱を帯びていく。サウンドを彩るボーカルにはyui(FLOWER FLOWER)とミゾベリョウ(odol)が名を連ね、既存の2つの楽曲とはまたひと味違った魅力を引き出している。特筆すべきは2人の清らかな歌声と音楽が渾然一体となって迫り来る後半のサビ部分で、心地好い浮遊感を抱かせると共にストーリーの結末へ至るまでの道筋を鮮やかに彩る芸術的側面すら感じ入る代物。総じて“ばらの花”と“ネイティブダンサー”でなければ成し得なかった、唯一無二のマッシュアップであると言えよう。
加えて、かつて映画『ヒミズ』、『悪の教典』での共演経験も持つ染谷将太と二階堂ふみが織り成す、綿密に練られたストーリーにも触れておきたい。物語は、大正時代の電車内で起きた男女の会偶から幕を開ける。一目で本能的に惹かれ合う2人だったが、呼び止めることは叶わず、男は足早に降車してしまう。その後も昭和・平成と時代を通して運命的な再会とすれ違いを繰り返す2人だったが、最終的には100年の時を経て著しい発展を遂げた令和の世界線にて、おそらくは誰もが切望したであろう心和む結末へと収束する。
ムービーは徹頭徹尾、電車内でのワンシーンを軸に進行していくのだが、限られた条件下でありながらも各時代を反映する姿容や風景描写、当時実際に運行していた電車の雰囲気等を忠実に再現し、時代の変遷を追体験することのできる試みでもって没入感を最大限に引き上げている。極めて映画的なストーリーの随所にリンクする“ばらの花”の《安心な僕らは旅に出ようぜ》、“ネイティブダンサー”における《淡い日に僕らは揺れた》といった歌詞の数々も秀逸で、ムービーに内包されたその穏やかなメッセージ性に拍車をかける。
今や鉄道ファンのみならず、音楽ファンやそのどちらにも属さない人々にも広がっている「100 YEARS TRAIN」の波。ラストシーンで映し出される「100年の想いを乗せて」の一文にもある通り、このムービーは相鉄の歴史を辿ることのできる重要なコンセプトムービーであるのは元より、令和という新時代を生き、そして将来的には更なる新時代の当事者となり得る我々が、「今」に至るまでの背景を再認識するうえでも後世に語り継ぐべき存在であると思うのだ。総じてこのムービーが「相鉄線のPR動画」としての魅力のみならず、圧倒的な熱を伴って受け入れられている現状は十中八九、偶然ではないのだろう。
100年もの時代を超えて巡り巡る2人の男女の運命的な記録。ぜひとも叙情的な音楽と映像に緩やかに身を委ねながら、ぼんやりと思いを馳せてみてほしい。3分26秒におよぶ邂逅の後にはきっと、上質な映画を観終わったかのような名状しがたい満足感に包まれているはずだ。(キタガワ)