2020年を迎えたこのタイミングで、ロッキング・オンが選んだ2019年の「年間ベスト・アルバム」上位10枚を、10位〜1位まで、毎日2作品ずつ順に発表していきます。
年間3位の作品はこちら!
【No.3】
『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』
ヴァンパイア・ウィークエンド
これぞ本当の「MEGA」
前3作を通じUSインディ界のホープとして確たる人気と地位を固めた彼らにとってメンバー・チェンジおよびメジャー移籍を経た本4thはまさに新たな章の始まり。ファンを安心させるコンサバ作に向かうこともできたろうが、飛躍のチャンスを正面から受け止め、アナログでは2枚組という今どき流行らない(笑)大作をぶつけてくる大胆さは逆に実に彼ららしい。「この手があったか!」と嬉しくて膝を叩きたくなる、アイディアとポップネスを秀逸に融合させるセンスはまったく衰えていない。
エズラ自身が本誌取材で語っていたように、これまで彼とロスタムによる作曲家の実験プロジェクトという側面が強かった彼ら。しかし多彩な客演者を集め制作された本作はカニエを始めとするモダン・アクトの手法を手本にしている。俗に「コンセンサス式」とも呼ばれるこの手法は一部の聴き手を警戒させがちだが(現代白人ロック・バンドの原型であるビートルズが外部ミュージシャンをほとんど起用せず傑作を作り出したことで生じた一種の「ピュアネス神話」は根強い)、固定しがちなバンドの枠組みをいったんバラすのも前進には必須。世界各地のグルーブやジャンル、新旧サウンドといくつもの声を混ぜ合わせ錬金した本作で彼らは活発な発想の交換とコラボの化学反応を志向している。野心的なぶんやや息切れする面もあるものの、ドアを開けた結果は吉、極上のあたたかなバイブとパノラミックな広がりが息づく素晴らしい1枚になった。
この新たな覚醒は本作にパーソナルかつポリティカルな視点ももたらしている。「打倒〇×」といった、声高でパンクにアジる抗議作品ではない。だがその多彩で重層的なサウンドを聴いていると、欧州・南米・アフリカ・アジア等、移民の国アメリカを豊かにし発展させてきた数々のカルチャーを感じずにいられない。そのアメリカが孤立主義を強め世界規模の気象変動を否定する政策を押し進めている現在、交流と相互理解をベースに「調和ある共存」を目指した音楽を作ることそのものが一種のレジスタンスじゃないかと思う。ジャケットに地球が描かれ“Harmony Hall”のビデオ冒頭と最後にカバラの「生命の樹」=宇宙が登場するが、大国アメリカもぐっと退いて眺めればこの青い「点」の一部ということ。分断、対立、混乱に揉まれる時代を癒す音楽だ。(坂本麻里子)
「年間ベスト・アルバム50」特集の記事は現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。