すでにTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』オープニングテーマとしてお馴染みのKANA-BOONの新曲“スターマーカー”を、KANA-BOONの2020年代初のCDシングルとして手に取った方も多いことと思う。
アレンジにも参加した金澤ダイスケ(フジファブリック)のピアノの音色と乱反射し合うような、溌剌とした躍動感に満ちたビートとアンサンブル。そして、光に向かって今を闊歩するような音像に《たったひとつだけ/願ってるんだ いつだって/最低な夜を抜けて》と弾むような歌い回しでスリリングな加速感を与える谷口鮪(Vo・G)のボーカルワーク。ラストの《たった一度だけ 一瞬のきらめきだけ/そんなやわな祈りじゃない/段違いに信じたい 飛び越えてもう一回/狭んでく君の視界を 僕らの世界を広く》と情熱の速射砲の如く畳み掛けられるフレーズはそのまま、KANA-BOONの「これから」を思い、奮い立つ谷口鮪・古賀隼斗(G・Cho)・小泉貴裕(Dr)の3人の冒険心を雄弁に伝えるものだ。
2019年には飯田祐馬の活動休止→脱退という重大な転機を迎えたKANA-BOON。ひたむきに夢を追い続ける疾走感を楽曲に直結させることで、眩しいほどのロックのダイナミズムと色彩感を描き出してきた彼らは今、自らの逆境すらもポップの極致の如きメロディ&サウンドへとフィードバックさせながら、輝けるロックと不屈の衝動を表裏一体で響かせるに至っている。バンドの進化が新たなフェーズへ到達したことの何よりの証だ。
そして――同じく3月4日、2020年代最初のリリースとなったのが、KANA-BOON初のベストアルバム『KANA-BOON THE BEST』。“ないものねだり”や“盛者必衰の理、お断り”、“眠れぬ森の君のため”といった初期曲から、昨年リリースされた“ハグルマ”&“まっさら”までをCD2枚組に収めた計30曲。そのDISC2の最後に収録されているのが、新曲“マーブル”だ。
《寂しさと胸の高鳴りがマーブル模様/交じっている》、《正しさだけを選べたら/後悔のない人生でしょう》……アコースティックギターのストロークを基調としたロックバラード“マーブル”は言わば、自らに訪れた離別への葛藤も寂寞感も、どこまでもリアルな息遣いとともに「それでも未来を見据える歌」へと結晶させた、谷口鮪の渾身のブルースである。
《ねぇ 春になったら/君も知らない僕がここに立っているけど/今日明日明後日も10年後だって/僕は僕のままでいるよ》(“マーブル”)
『KANA-BOON THE BEST』にインディーズ時代の楽曲“スノーエスカー”の新録版が収録されているのも、そんな彼らの現在のモードと密接にリンクしたものだろう。《確かな確かな心で/描けない君と繋いだまま/選べない思い出/写し出した未来》と《無いな 無いな 無いな ここには/あの日の言葉も 形も》というアンビバレントな想いがせめぎ合う中、それでも不確かな「今」を生き抜いて未来へと手を伸ばす――。今回のふたつの作品が指し示すのは他でもない、新たなスタートを切ったKANA-BOONの歩みの強さそのものだ。(高橋智樹)
KANA-BOONの新章が力強く動き始めた! 新曲“スターマーカー”と“マーブル”に込められた決意
2020.03.04 12:00