00年代前半のヒップホップを牽引したDMX、50歳で逝去――原点から離れることなくストロング・スタイルを貫いたレジェンドを偲んで

00年代前半のヒップホップを牽引したDMX、50歳で逝去――原点から離れることなくストロング・スタイルを貫いたレジェンドを偲んで

トゥパックとザ・ノトーリアス・B.I.G.というヒップホップ史上最強の2大スターが相次いで銃撃事件で絶命した後、90年代末に登場してジェイ・Zと並んで00年代前半のヒップホップを牽引したDMXが4月9日にニューヨーク州の病院で他界した。入院の原因は薬物の過剰服用と推定されていて、最終的に多臓器不全により息を引き取ったという。

DMXことアール・シモンズは、少年時代からMCを目指し、やがてニューヨークで自身のミックステープを売り捌くようになり、90年代に入るとヒップホップ専門誌ザ・ソースの「注目未契約アーティスト」のひとりとなっていた。その後、LL・クール・Jの楽曲への客演で大注目され、1998年5月には『イッツ・ダーク・アンド・ヘル・イズ・ホット』でアルバム・デビューを果たす。以後、DMXはアルバム5枚連続でチャート1位とプラチナ・セールスを記録するという偉業を成し遂げるが、その人気の秘密はトゥパックを思わせる好戦的なラップ・スタイルを自ら引き受け、その強度をさらに上げていったところだろう。

ただ、トゥパックは感傷的な一面もちらつくのが魅力だった一方、DMXは弱さを一切見せないスーパー・ストロングなキャラクターが売りで、それは母親から受けた壮絶な虐待に耐えた生い立ちが育んだものだったのかもしれない。今となってはそうした生い立ちが体系的に作品化されなかったことが個人的に惜しいと思う。

また、ジェイ・Zが自身のイメージを洗練させていく一方で、DMXは自身の原点から離れることはほとんどなかった。あるいは、プロデューサーのスウィズ・ビーツなどは世間的にはジェイ・Zが発掘したと誤解されがちだが、そもそもは最初期のDMXと一緒に大ブレイクを果たした人物で、最後までDMXとの絆を大切にしていた。

DMXはその売りであるダミ声のほかに、作品で犬の吠え声が頻出することでも有名だ。これは虐待を受けて家出していた少年時代に野良犬を飼い馴らしたり、他人の犬を飼い馴らしては盗み出していたほど犬好きだったことが高じてのことだ。そんな犬と自分の関係を作品化したところを聴いてみたかったとも思う。(高見展)



DMXの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。


00年代前半のヒップホップを牽引したDMX、50歳で逝去――原点から離れることなくストロング・スタイルを貫いたレジェンドを偲んで - 『rockin'on』2021年6月号『rockin'on』2021年6月号
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