孤高のラッパーよ、安らかに

DMX『エクソダス』
発売中
ALBUM
DMX エクソダス

2021年4月9日、ラッパーのDMXことアール・シモンズがこの世を去った。享年50で、死因は薬物の過剰摂取による心臓発作。その早すぎる訃報に世界中のファンが悲しみに暮れるなか、DMXのキャリア通算8作目にして、前作から約9年ぶりとなるスタジオ・アルバムはリリースされた。

急逝から7週間後の発表となった本作は、盟友でプロデューサーのスウィズ・ビーツによれば、DMXの生前にほぼ完成していたという。果たしてその内容は、ベテランから若手まで10数名のラッパー/シンガーを招聘した、じつに華やかな全13トラックで構成される。なかでもジェイ・Zとナズをフィーチャーした“Bath Salts”は感動的な1曲で、ニューヨーク・ヒップホップの頂点に君臨してきた3人のマイク・リレーには、思わず胸を熱くせずにいられない。

あるいは、スウィズ・ビーツの妻アリシア・キーズが鍵盤と歌唱で参加した“Hold Me Down”、U2のボノがコーラス・パートを歌った“Skyscrapers”などを聴くと、DMXがシーンやジャンルを超えて愛されてきたことを改めて痛感させられるし、そんな彼に発破をかけて今作のレコーディング・スタジオも提供したスヌープ・ドッグとの共演曲“Take Contro”は、その卑猥すぎるリリックのやりとりが、ふたりの健在ぶりを物語るものとなっている。

古巣〈デフ・ジャム〉への復帰を告げた今作は、90年代後半以降のヒップホップを牽引してきたDMXの面目躍如を示す渾身の1枚だ。主役である彼のドスが利いたラップにもっと焦点をあててほしかった気もするが、いずれにしても彼は今作をとっかかりに再起を図ろうとしていただけに、それが遺作となってしまったことは、本当に残念でならない。(渡辺裕也)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。

DMX エクソダス - 『rockin'on』2021年8月号『rockin'on』2021年8月号

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