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イアン・ペイス(ディープ・パープル)
言わずと知れたディープ・パープルの不動のドラマーである。メンバーの出入りが激しいパープルで、結成から現在まで、解散していた時期を除き、途切れることなくバンドに在籍し続けているのはイアン・ペイスだけだ。そういう意味でパープルとはペイスのバンドであり、ギターやボーカルよりもペイスのドラム・プレイがバンドを支え続け、その個性を決定したとも言える。
ディープ・パープルはそのつど在籍するメンバーの志向やバックグラウンドによって、微妙に音楽性が変わる。結成当時のサイケデリックでクラシカルなアート・ロック・サウンド、イアン・ギラン加入後のハード・ロック路線、デイヴィッド・カヴァデールやトミー・ボーリンが参加してのソウルフルでファンキーな路線と変化しそのつど賛否両論を呼んだが、ペイスはその変化のすべてに対応し、メンバーの多様なリズム・アレンジの要求に応えてきた。相方であるベーシストもそのつど代わっていく中、バンドがバンドとしてきちんと成立していたのは、ペイスの堅実で正確なプレイに依るところが大きいはずだ。
バディ・リッチに大きな影響を受け自己のスタイルを形成したペイスのドラミングは、手数が多くスピード感があって、しかもリズムは正確無比、安定感は抜群でプレイにムラがない。その実力のほどは70年代パープルの到達点『ライヴ・イン・ジャパン』でわかる。ソフィスティケイトされたテクニックと、ハードなサウンドであっても決して崩れることのない端正で完成度が高くスマートなドラミングは、同時代のライバルでもあった荒々しく野性的なジョン・ボーナムとは対照的で、それはそのままパープルとツェッペリンの個性の違いにも繋がってくる。不器用であるがゆえ、どんな曲でも強引に自分の色に染めてしまうボーナムに対して、器用でテクニシャンでどんな音楽にも対応するペイスは、いい意味での職人タイプと言える。
そのスタイルと高い技術ゆえ、スタジオ・ミュージシャンとしても優れた仕事を残せるはずだが、ほぼパープル一筋のドラマー人生。唯一と言っていい外部仕事のポール・マッカートニーのロックンロール・カバー・アルバム『ラン・デヴィル・ラン』ではシャッフル/ブギー・スタイルもソツなくこなし、芸域の幅広さを見せつけている。(小野島大)
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