アレック・エンパイア、エイドリアン・シャーウッドの新作を「本物の恐怖」と語る
2012.12.21 22:00
12月22日に最新作『サバイバル&レジスタンス』を自らリミックスし、再構築したEP『リカバリー・タイム』をリリースするエイドリアン・シャーウッドだが、そのエイドリアン・シャーウッドの新作について、アレック・エンパイアが長文のコメントを寄せている。
コメントの全文は以下の通り。
「エイドリアン・シャーウッドがミキシングデスクを楽器として使用しているのを初めて見たのは1993年だった。彼は、俺らがアタリ・ティーンエイ ジ・ライオットのトラックの制作を行っていたロンドンのRoundhouseスタジオで隣の部屋にいたんだ。彼が巧みに音を重ね、古いディレイや フェイザーを使い、広くてオープンな音空間を作り上げていたことをはっきりと覚えている – ダブ風のサウンドスケープは彼の得意分野の一つだ。リー・ペリーの ‘The Good, the Bad and the Upsetters’などの70年代ダブは聴けばわかる通り、非常に強いコンプがかかっているが、シャーウッドの作品はよりはっきりと音が分離している。 まるでビジュアルを伴うかのようなサウンドなんだ。彼が作業するのを見ていると、彼が実験的な世代の人間の一人だということは明らかだった。サン プリングが登場する前の80年代では、風変わりで予想できないサウンドに留まらず、それらの条件に加えて、簡単に複製できない個性の強いサウンド デザインが追い求められた。例えば、シャーウッドのニューアルバムのクレジットには、ジャズレジェンドのスキップ・マクドナルドが「チューニング コン サルタント」として登場している。なぜかというと、‘Survival & Resistance’製作中にシャーウッドと彼のコラボレーターがブラジルへ行き、現地のトラディショナル楽器の録音をしたとき、スキップが楽器をあま りに低くチューニングしたため、シンセのような音になったからだ。チューニングはミュージシャンの冒険を支える古くから存在する手法の一つだ – 例えば、ギターでもチューニングを下げれば周波数がよりリズミカルになる。これがシャーウッドの音の合成に対する基本的なアプローチだ。
俺は‘Survival & Resistance’を半分聴き終わった頃に、なぜエイドリアン・シャーウッドは大好きなのに、ダブステップやダブの影響を受けた新しいサブジャンルは 個性がなく、面白みがないと感じるのかを考え始めた。多くのダブステッププロデューサーは同じソフトを使うため、想像力やサウンドのバリエーショ ンに自然と制限がかかってしまうというのが理由の一つだと思う。その制限は音自体のみならず、音楽を支える思想にもかかっている。それに対 し、’Survival & Resistance’の広大なサウンド、特に不穏なコード進行が電気干渉によって支えられている ‘U.R. Sound’というトラックでは本物の恐怖が表現されている。その恐怖感はシャーウッド特有のスピリチュアリティにより緩和され、均衡のとれたサウンドに 仕上がっている– 例えば、’Trapped Here’におけるラスタファリアン説教師 Ghetto Priestの黙想的なボーカルが良い例だ。このアルバムにダブステップ要素がないわけではない。’Two Semitones and a Raver’などのトラックにはダブステップ要素が入っているが、それでもいつも通り、シャーウッドの音楽は一つのジャンルに収まらない。それは、彼が一 緒に作 業をしている人達:リー・ペリー、スキップ・マクドナルド、ダグ・ウィンビッシュなどによるところが大きい。このサウンドは一人のアーティ ストがそこらのソフトを使って再現できるようなものではないんだ。
アタリ・ティーンエイジ・ライオットのように、シャーウッドは政治的なアーティストであり、自身のOn-U Soundレーベルではブラックジャマイカの流れを汲んだ音楽を擁護し、広めてきた。俺達のやっていたことの方がノイジーで激しいと言う人もいるかもしれ ないが、ATRのベース・テラー・サウンドシステムは彼のレーベルから影響を受けたものなんだ。On-Uは社会批判の精神を持った、一体感を作り 上げることを目標としている– 政治的なメッセージを崩すことなく、人を集めてきたんだ。我々リスナーがただ後ろで傍観しているだけならば、その音楽は何も語らないし、置いて行かれてい るだけの自分に気づくだろう。シャーウッドはストレートで重大な政治的メッセージを持っていて、それは現在のダブステップシーンが緊急に必要とし ているものだ。世界的な金融危機やウォール街デモの最中に ‘Survival & Resistance’をリリースしたシャーウッドは我々にサウンドシステムは何なのか、そして現在どうあるべきなのかを思い出させてくれた。是非若い人 達に聴いて欲しいアルバムだ。なぜなら、政治批評としての音楽は今まで以上に意味を持ってきているからだ。」
ちなみに、エイドリアン・シャーウッドは来年4月に開催されるSonarSound Tokyo 2013にて、ブリストル出身のダブステップ・ミュージシャン、ピンチと共に「Sherwood & Pinch」として来日を果たすことが決定している。ピンチはEP『リカバリー・タイム』にも参加している。
EP『リカバリー・タイム』の詳細は以下の通り。
エイドリアン・シャーウッド
『リカバリー・タイム』
BRE-42
12月22日発売
01. In Full Effect
02. An Earful
03. Entrapment
04. Semistoned
05. U.R.Sound (Float Beyond Fear Mix)
同時発売
エイドリアン・シャーウッド
『サバイバル&レジスタンス + リカバリー・タイム』
BRC-342S
2012年12月22日発売