キャンプサイトの話

キャンプサイトの話

たしか2004年のことだったと思う。これまでに何度か一緒にフジに来ている友人が、その年は急用か何かで、当日ドタキャンしてしまった。まあ、2〜3人用のテントを1人で贅沢に使うのも悪くはないので、それはいい。

さて、初日の夜にキャンプサイトに戻ってみると、僕のテントの前に、朝は見かけなかった大きなビニールシートが丸まっている。
誰が放置したんだ? と怪訝に思っていたのだが、そのビニールシートは時折、もぞもぞと勝手に蠢いたりもするのだ。まさか、誰かが寝ているのか? ビニールシートにくるまって、夜を明かすつもり なのか?

無 茶 す ん な !

夏とはいえ、苗場はスキー場だ。夜間は冷える。雨が降ったら風邪では済まされないかも知れない。
どんな人が出てくるか分からないし、しばし悩んだが、意を決してやはり叩き起こすことにした。「あのさあ、起こしてごめんね。それで寝るの、危ないからさ、俺のテント空いてるから、中で寝なよ」。親切な上にへりくだる、という僕の必殺フェイントが効いたのか、単にまだ寝ぼけているのか、飛び起きた男は暫くボーっとしていた。

ところが、半身を起こした男の姿勢と無関係に、またシートが蠢いている。今度は女の子が、顔を覗かせた。

カ ッ プ ル か !

男は彼女に状況説明をして、「どうする?」とか言っている。

どうもしない。「いいから、ホレホレ入って!」。急かしてテントに押し込んだのだった。なんか、僕が二人の時間を邪魔した野暮な奴みたいじゃないか。気兼ねしないで自由に使っていいからさ、と簡潔に事務的に話をまとめて、寝た。

で、二人はそのまま月曜の朝まで、寝泊まりしていった。僕は深夜、テントに戻ってくるたびに、二人が先に寝ているのを確認すると、妙に安心したりするのだった。なんだあれ。

今度会ったらビールを奢ってもらう約束だけど、あのとき以来、二人には会っていない。今年は来ているのだろうか。いや、もう泊めてあげないけどね。

あ、もし本人達がこれを読んでくれていても、RO69経由で連絡してくるのはナシです。苗場で、自力で、僕を見つけてください。僕は今年もここにいます。
(小池宏和)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする