奥田民生「OTRL」


奥田民生「OTRL」
8月4日リリース

ある意味、過去の作品で最も、「どんなんだろう?」っていう
楽しみのなかった、ニューアルバムです。
言うまでもないが、理由は「もう聴いてる」から。

録音した数時間後に配信された曲たちだし。
特に、私の場合だとこの中の2曲は、録ってるとこ、
何時間も、ずうっと観て聴いていたわけだし。

ただ、逆にいうと、そういうものであるがゆえに、
これまでずうっとOTの作品に触れてきている耳でも
わからなかったことが、ここで初めてわかる、みたいなことになっている。
それが、すごくおもしろい。

ダブルっていうんだっけ、あの、ボーカルをおんなじメロディで録って、
重ねるやつ。あれがどこでどういうふうに使われているのか、とか。
この曲のこの部分は、ギターが何本重ねられているか、とか。
ここんとこのボーカルのリバーブは、どれくらい深いか、とか。

で、当然、「ああ、ここはギターが3本だなあ」とわかるところで
留まらず、「そこを3本にすることによってOTは何を描こうとしたのか」とか、
そういうところにまで思いを馳せられる、そんな楽しみ方ができるのです。

なんでしょう。これまで「うまい!」ってことしかわからなかった料理が、
「あ、ちょっとだけゆず皮を入れて香り出してるのか」ってことが
わかったことによって、よけいうまさを感じるようになる、みたいな。

いや。失敗かも、このたとえ。
なんていえばいいのか。とにかく、これまでのアルバムとは違う楽しみ方が
できる、ということです。

あと、客前で、しかもひとりっきりの多重録音で録ってるわけだから、
全体に、通常のレコーディングよりはラフな作りになっているんだけど、
それによって、却って本音みたいなものが見えている感じもいい。
特に、歌詞と、ドラムにそれを感じます。

しかし、こうして音源を聴くと、この人、いつの間にか、ほんとに
いいドラマーになっていたんだなあ、と、つくづく思う。

OT、ちょっと前に、やたらドラムを叩きたがっていた時期があって、
「くるりに入れろって言った」とか「フジファブリックに入りたい」とか
よく口にしていた。

で、「俺は、いいドラマーとばかりやってきてるんだよ。
川西さん、シータカさん、スティーヴ・ジョーダン、湊くん。ね?
だから、自分が叩いても、よくなってるはずなんだ」みたいな
ことを言っていて、「はいはい」とか言って、あんまりまともに
取り合わなかったんだけど、このアルバムを聴いていると、
「……ほんとにそうかも」と思います。
キックとスネアのタメと鳴り、超気持ちいい。