楽曲はyasuにとって旧知のメンバーによるものが多いが、インダストリアル&デジタル&ヘヴィに振り切ったアレンジやライム的な節回しまで、ある種作り手の嗜虐的趣味が露わになる作品になっている。そんな10曲を的確に歌い上げていく様には感心するばかりだが、本作を通して実感させられるyasuの凄さとは、図抜けた技術や声質——というよりも、楽曲の本質と作り手の意図を浮き彫りにして見せるような、ある種の残酷さであり、もっと言うと、ある種のエグさなのだと思う。
この能力を「繊細な解釈力」と言ってしまえばそれまでの話になってしまうのだが、その透明な歌声は曲に込められた世界観を見事に射抜いていく。それはひとつの物語にある美しさや恐ろしさであり、人間の強さ、虚しさ、怒りや孤独、あるいは深い闇だったりするが、楽曲が根差している「核」を言い当てながら突き進んでいく、この表現は要するに、極めて批評的であるということだ。作り手の意図以上に、作り手の意図的なる表現が繰り返し立ち現れる。
思えば、キャリアの一里塚を示すように発表されてきたカヴァー集におけるパフォーマンスもやはりそうだった。誰もが知る国民的名曲に今なお眠る新たな正解と解釈を浮き彫りにするようなアプローチ。何かに気付かせる役割が音楽にあるのだとしたら、yasuの歌はその意味で図抜けた力を持っていると思う。そして、だからこそ、ABCの作品はいつも、世界と人間の真実が刻まれていくのだろうとも思う。
——なんて書くと、なおさらABCの新作が待ち遠しくなるが、それはそれとしてこの作品は傑作です。ぜひ。