Thom Yorkeはなぜ「ソロ」ではなく「Atoms For Peace」と名乗ったか

Thom Yorkeはなぜ「ソロ」ではなく「Atoms For Peace」と名乗ったか

レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー、ナイジェル・ゴドリッチ、ジョーイ・ワーロンカー、マウロ・レフォスコと、錚々たるメンバーを集結させたこのバンドのことを、当初、Thom Yorkeは、ただの「Thom Yorkeのソロ・ワークを演奏するバンド」としてプレゼンテーションした。このバンドがバンドとして名前を持ったのは、コーチェラ・フェスのラインナップ発表の直後で、だからはじめのコーチェラのポスターには、Thom Yorke???と記載されてすらいた。

それが、Atoms For Peaceという名前を持つバンドとなった。

この経緯が意味するものは何だったのだろうか? というか、この経緯のある意味どたばたぶりにこそ、このバンドの「成したこと」の意味が物語られていると思うのだ。

このバンドが演奏するのは、Thom Yorkeが2006年に発表した、ソロ・アルバム『The Eraser』の楽曲が主体である。であるなら、それはThom Yorkeバンドとして、名乗られ、プレゼンされるほうがすっきりする。ところが、そうはならなかった。ここで集められたメンバーによるそれらの楽曲は、ソロ・ワークで意図していたものをまるで「素材」でも扱うかのように、おそろしくファンキーでスリリングなニュー・サウンドに作り変え放出してしまった。

いま一度『The Eraser』を聴きなおすと、苗場の漆黒に轟いたあの音との百万光年の隔絶を感じるはずだ。それは、別のものに「なっていた」のである。

もちろん、それこそが、このプロジェクトでThom Yorkeが意図していたものだったはずである。つまりは、自身の音の肉体化であり、刷新、である。この意外な人選は、そのための実験場として招聘されたのだから。

そして、その実験は結果として、知っての通り驚くべき成果を上げてしまった。ライブを重ねるごとに新しい音楽の可能性を放射していくこのバンドの在り様に、もしかしたら一番驚いたのは当のThom Yorkeだったかもしれない。

だから、このバンドは「『The Eraser』のThom Yorkeバンド」ではなく、「Atoms For Peace」というまったく別個の人格を与えられなければならなかったのである。

だとすれば、この一連のバンド名の経緯が、実際に生み出されていく音によって必然的に要求された、ドキュメントだったことが理解できるのである。
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