2010年下半期私的ベストAL 第6位

2010年下半期私的ベストAL 第6位

Antony & The Johnsonsの『Swanlights』を選出。

間近で観たAntonyは想像していた以上だった。今年、「Antony & The Ono’s」として、大野一雄の映像や息子・大野慶人らによる舞踏を織り交ぜながら歌っていたAntonyは、まさに、「世界はわれわれが観ているもの以上のものである」ということを圧倒的な質量で伝えてしまっていた。喜びも哀しみも希望も絶望も、そうしたものには今手にしているもの以上のスケールと深度があって、それゆえに、度外れた苦しみも計り知れない愉悦もあるということがとめどなく流れていた。

しかし、重要なのは、そのような「もっと」なのではない。そうした「向こう側」の存在が、われわれの今を肯定してしまうこと、である。大野一雄が虚空で踏む揺らめくようなステップは、大野一雄自身を救うことはないだろう。しかし、それがそうあることによって、観ているわれわれは救われるのである。Antonyにとって大野一雄の存在がそうであったように、われわれにとってAntonyはそのような存在なのだ。優しい言葉のひとつも投げかけられたわけではないけれど、Antonyはただ在ることで、われわれを癒す。そのような連綿とした力学がこの世に繰り返されていることを、そっと伝える。だから、Antonyは、「ありがとう」というのである。

「Thank You For Your Love」のPVはこちら。
http://www.youtube.com/watch?v=I-Xdm5yS6PY
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