ウィーザー、『ブルー・アルバム』全曲再現ライブを観て

ウィーザー、『ブルー・アルバム』全曲再現ライブを観て

今日と明日、それぞれファースト・アルバムである『ブルー・アルバム』とセカンド・アルバムである『ピンカートン』を丸々全曲フル再現するスペシャル・ライブを敢行するウィーザー。その初日に行ってきた。

立錐の余地なく埋まったZepp Tokyoの光景が、どれほどこのバンドが、そしてそのアルバムが愛されているかを、もう泣きたくなるほどはっきりと示していた。というか、このような「企画」が、いったいどれだけのバンドに許されることなのか想像してみれば、このことの特別性は自ずとわかる。ヒット・ソングをたくさん出してきたバンドはいるだろう。ある時代に輝いたバンドもまたいるだろう。しかし、一枚のアルバムが15年の時を超えて丸ごとそのまま再現されるというライブをこのような祝福の光景として成立させられるバンドは、そうはいないのである。この夜のウィーザーは、だから、とても幸せなバンドである。

とはいえ、このような「企画」を実行できたという背景に、最新アルバム『ハーリー』の存在があったこともまたあらためて実感した夜だった。そもそもウィーザーは、というかリヴァース・クオモは、このファーストとセカンドをリリースした後、いったん「ロックを辞めてしまった」のである。それは、これらの作品が彼にとって当時強烈にトラウマティックな何かだったことを示している。実際、その後復活し、何枚ものアルバムを重ねてきたとはいえ、それらの作品がどこかエクスキューズを含み、リハビリのプロセスを感じさせるものであったことは抗えない事実だった。最新作『ハーリー』が、ファーストやセカンドのエモーションを久方ぶりに奪還していたファン待望の一枚だったことと、こうした「再現ライブ」の実現は、どこかできっとリンクしていることなのだ。

そういったことをつらつら思いながら、目の前のリヴァースの、この万年モラトリアム少年な風情を見ていると、もうこれは、モラトリアムといった腰の引けたアティチュードが、時ここに至ってはラジカルなレジスタンスとしてギリギリと迫るものに思えてくる。「大人になんかなれないよ」と歌っていた情けないリヴァース少年は、「大人になることは今日までずっと断ってきた」とこちらを見据えるリヴァース中年になっていた。関係あるのかどうかは知らないが、それにしても、バンドもいっこうにうまくならないよなほんと。今は無き新宿リキッドルームで目撃された初来日ウィーザーの粗暴なぎこちなさは、2011年になってもまったく不変だ。でもそれは、「普段はギターなんか触らないでパーティ行ってまーす」といったそこらのへなちょこバンドのそれではなくて、「毎日必死になって練習してんだけどうまくなりません!」といった、逆の凄み(?)にすら思えてくるから不思議だ。

ともあれ、通常のライブセットを40分強ほど演り、インターミッションには心憎い「スタッフによる懐かしいスライド・ショー」があり、そして、『ブルー・アルバム』全曲という構成だった。

ウィーザーはロック・バンドでもっとも優れたバンドですか?と訊かれれば、そうじゃない理由をつらつら挙げていくだろうけど、誰かが「ウィーザーってどうなのよ?」と言ってるのを聞いたら「こらこらそこに座んなさい」と食って掛かりそうになる、ウィーザーとはそんなバンドである。つまりは、愛すべきバンドである。それは、ウィーザーが、誰しもが持つせつない幻想を性懲りも無くひたすら歌ってきたバンドだからである。このバンドは、そもそもが幻想なのである。カッコいいバンドになりたいという幻想。ステキなあの娘とどうにかなりたいという幻想。その誰にも否定できない(というか、このふたつの幻想に「関係ないですボク」とか言える人はロック聴かなくていいと思う)幻想を、そのまま生きる原動力として両手いっぱいに抱えていた(そしてもいまもなおそうである)バンドである。だから、この夜のZepp Tokyoの、まさに「あの日の幻想」に思いを馳せる空気がどのように尋常ならざるものだったかを推し量ることは可能かと思う。あなたにとっての「My Name Is Jonas」が、きみにとっての「Say It Ain’t So」が、そこでは誰に咎められることもなく、いたるところで、思う様精一杯存在を主張していたのだから。

つとめて冷静に観ていた僕ですが、「Holiday」のイントロが鳴ったら、「ああ、もう終わっちゃう」と声に出していました。そして、ラストの「Only In Dreams」が鳴っている間、「この曲を聴き終わると、いつも猛烈に「独り」であることを実感するんだよな」と思っていました。


今夜のライブレポートは粉川しのが書きます。お楽しみに。
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