2011年上半期私的ベストAL第9位

2011年上半期私的ベストAL第9位

Cultsの『Cults』を選出。

このニューヨークはブルックリンの男女デュオについては、これまでも何回か当ブログで取り上げてきた。その中では、昨今のネオ・フォークの動き、そして、このCultsが鳴らすような、いわゆるクラシカル・ポップスへの偏愛的憧憬について、それらはどこか、「今、アメリカは戦時中なのである」という背景と関連があるのではとも書いてきた。

つまりは、ブッシュの愚劣がもたらした、これまでにも類を見ないほど「近い」戦争の体感が、かつて1960年代、1970年代に隆盛したフォークの調べを、あるいは、もっと遡って、1950年代にラジオで流れていたようなスウィート・ポップスを、現代に招来させているのでは?という推論だった。

実際、それらは現実から逃げ惑う、ひ弱な生のかすかな息遣いとして、このようにかよわくも哀しい音をひとつひとつ拾いあげながら鳴らされている。Cultsの音には、統制下の暗闇でラジオに耳をそばだてることで聞こえてくる、小さなオルゴールのような響きがある。古のウェルメイドな量産型クラシック・ポップが、この2010年代のインディー・シーンにおいて必然として取り出され、育まれているその事実が意味するものは、あらためて重く切実だと言っていい。

それは、これらのファンタジックな曲の数々が、現代のリアルを逆説的に表現してしまっているということだ。Cultsが流れている間、わたしたちは小さな光を見つめる喜びよりもむしろ、その灯が「なにゆえ小さいものでしかないのか」ということこそを実感する。そして、その古への憧憬が、後ろ向きな視線ではなく、この現代がほんとうに「もう絶対に取り返しのつかなくなってしまった世界」であることをも伝えているのである。そこには、弱さだけでは耐えることのできない、冷静な精神があるのである。

「Go Outside」

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