ロジャー・ウォーターズ『The Wall』ツアーが映画になって全米公開。本人も登場のプレミアに行って来た!

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ソロのアーティストとしては史上1位、ソロ以外のアーティスト含む全体でも史上3位という興行成績を記録した、2010-2013年開催のロジャー・ウォーターズの”The Wall”ツアー。その模様が『Roger Waters The Wall』というライブ映画になって完成、そのプレミア上映に行って来た。

9月28日にNYで最も由緒のあるZiegfeld Theatreにて行われたこのプレミア上映には本人もやって来た。

上映が始まる前に登場し、「皆さん今日は来てくれてありがとう!僕にとっては、ここまでの道のりは非常に長かった。でもとうとう完成して、今日ここに来られたことを本当に嬉しく思う」「これから上映される映画からは爆音が流れる。どんなロックのイベントであってもそれは大事なことだからね。この映画を観てみんなが感動してくれたら嬉しい。たぶん感動してくれるんじゃないかと思うんだ」と言って、映画完成に協力してくれた人達へ感謝の意を述べた。「何千人もいるから、ここで全員の名前を言うわけにもいかない。映画が終わるのが10時過ぎになってしまうからね(笑)。だから、もういい加減黙って、映画を始めたいと思う」と言って上映が開始された。

私は、マディソン・スクエア・ガーデンで行われたこのツアーを観ているが、映画からは、その時感じた人間の許容範囲を超えるようなとんでもない巨大さ、恐怖感、そしてサウンドのド迫力がそのまま伝わるものである、というだけでも素晴らしい作品だと思った。

しかし、この作品はそれだけではないところが普通のコンサート映画とは徹底的に違うところで、そこがさらに素晴らしい点。

コンサート映像と同等くらいの重要さで、ロジャー・ウォーターズが、イギリス兵士として第二次世界大戦で亡くなった父のイタリアにあるお墓を訪れ、さらに父がまだ赤ちゃんの時に第一次世界大戦で亡くなった祖父の墓を、彼が車で運転して訪れるというロード・ムービーも描かれているのだ。ロジャー・ウォーターズが道すがら、父の手紙を読んで涙したり、英語が通じないバーテンダーに語りかけ涙したりする場面も流れるのである。この巨大なアルバム、ツアー、そして、かつて映画にもなり、再びここでライヴ映画となったこの超巨大な作品の原点は、非常に明確な、彼個人の父への思いであることがここで再び総括される。この作品の強靭さ、恐怖は、この明確な原点があるからこそだと改めて思わされる。漠然とした思い、というのではまったくないのだ。

それが交わるからか、非常に興味深いのは、巨大なスタジアムのステージでのコンサート映像が映し出されても、ステージ上の彼の心情で観てしまうからか、なぜか徹底的に孤独に感じるのも、この作品の凄まじいところだ。なので、サウンドが”爆音”とは言っても、これがまた普通のコンサート映画のサウンドとも違って、耳をつんざくような”爆音”では決してない。ヴォリュームがデカイということではなくて、各音は思いきりクリアだが、思いきり重さがあり、その心情の重さと比例するようなのである。そして、それも壮大でありながら、どこか徹底的に孤独がつきまとうサウンドなのである。一体どうやってそんなことが可能なのかよく分からないのだけど、音楽を担当したナイジェル・ゴドリッチの才能に改めて感動する。

その孤独というのは、つまり、彼が建てた巨大な壁の存在を観ている人達も感じるからなのだと思う。だから、彼がそれを壊すシーンでは、観客が涙するシーンがアップになるのだけど、映画を観ている私たちにも同じ感動が訪れる。また、彼が父の墓を彼が訪れるシーンでは前に座っていた年配の男性の観客がすすり泣きをしていた。

ロジャー・ウォーターズは、トロント映画祭で行われた上映会でこう語っていた。

「僕と父の物語については40年前くらいに考察したので、この映画では、僕と僕の父の喪失の物語以上のことを考察してみたかった。それは、世界中において、今後僕のように父や母や兄妹や、子供達を戦争で失う人達がいないようにすること。そのために、政治や商業において、人々を殺さずして組織する方法を見出さなくてはいけないということ。この映画で描きたかったのはそういうことなんだ」

この作品はつまり、史上最大規模のツアーを最高にして独自の形で再現したものであり、さらに父の喪失についての旅を描いた個人史でもあり、そして戦争反対を強く訴える映画なのである。

映画の予告編はこちら。

アメリカでは限定1日で劇場公開がされた。今後の展開についても要注目!

ちなみにこの日の上映には、ライブにも出演している彼の息子さん他、ニック・メイスン、スティングなどの姿も見られた。
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