制作費わずか450万ドルで、アメリカ国内の興行成績が1億7600万ドル!というとんでもない大ヒットを記録した作品。ちなみに、今年のオスカー作品賞で、1億ドルを超えているのは、『ゲット・アウト』と、『ダンケルク』のみだ。
一応、“ホラー映画”というジャンル分けにはなっているが、観たこともないような“ホラー映画”となった今作は、これから何十年もの間、映画史に残る名作として語り継がれていくだろう。今年のオスカーでは、作品賞、主演男優賞、監督賞、脚本賞の4部門にノミネートされている。
プロデューサー協会賞を受賞した際、監督がトランプ政権との関係性を語っていて、それが感動的だった。以下要約。
「この映画を作るにあたって、自分にとって何が一番怖いのかを考えました。それは白人ではありません(笑)。それは、沈黙だと思いました。『ゲット・アウト』というのは、それに対する僕のプロテストです。そうやって“the sunken place”(主人公が催眠術にかかって落ちていく場所)を思い付きました。
”the sunken place"というのは、映画やテレビにおいて、特定の人たちの声を表現することを故意に避けるシステムです。”the sunken place”というのは、女性の、マイノリティの、その他の人たちの声を黙らせる場所です。
”the sunken place”は、警察の暴力に対する法的措置を求める叫びを無視する場所です。”the sunken place”は、フリント市民がきれいな水を求める声が無視される場所であり、プエルトリコへの最低限の救済が無視される場所であり、ハイチへの当たり前の敬意が無視される場所です。
僕はいつもならもう少し明るいスピーチをします。自分の言いたいことは作品を通して言ってきたからです。しかし、今ばかりは、はっきりと言うべき時だと思います。
なぜなら、”the sunken place”というのは、大統領が、自分の信念を表現するフットボール選手を『クソ野郎』と呼ぶ場所であり、我々の最も美しい移民達の祖国を『汚しい』と呼ぶ場所だからです。そして、毎日、僕らは本当に今”the sunken place”にいるのだと思えることが起こり続けています。ここには、僕らの声を抑圧するシステムがあるのです。
それは悲しいことであり、国としても後退である、としか思えませんでした。とりわけこの人種差別主義者が行政を仕切っているから。
しかし、僕は今元気づけられている。なぜなら、とうとう、人とは違う声がその壁を打破していると思えるから。外の声が、これまで以上に大きくなっていると思えるから。これまで無視されてきた声や物語が、祝福され、受け入れられていると思えるから。
僕らはもうこれ以上、沈黙、しない。もう抑圧もされない。アートというのは、単なる希望じゃない。戦うための武器なんです。だから、僕らは僕らの物語を語る事で、どれだけ様々な人たちの正直な物語が、人々の目や心を開放する事になるのかを見せていきたいと思います。
僕らはみんなで一緒にこの”the sunken place"から抜け出せるのです」
ジョーダン・ピールは、1年でオスカー3部門にノミネートされた初の黒人監督だ。監督賞としては、『ボーイズ’ン・ザ・フッド』のジョン・シングルトン、『プレシャス』のリー・ダニエルズ、『それでも夜は明ける』のスティーヴ・マックイーン、『ムーンライト』のバリー・ジェンキンスに続く5人目となる。個人的には絶対何か一つ獲ってもらいたい!