「プリンスも歌ってくれている」――スパイク・リー監督が語る感激受賞スピーチを大統領が「人種差別者的攻撃」と批判。対してスパイクは大人の対応、さすが!

「プリンスも歌ってくれている」――スパイク・リー監督が語る感激受賞スピーチを大統領が「人種差別者的攻撃」と批判。対してスパイクは大人の対応、さすが!

昨日のアカデミー賞の見所は、レディー・ガガとブラッドリー・クーパーによる感動的な”Shallow”のパフォーマンスを筆頭にいくつかあったが、その次に盛り上がったのは、スパイク・リーが『ブラック・クランズマン』で脚色賞を獲った瞬間だった。『ドゥ・ザ・ライト・シング』でノミネートされて以来30年でようやく受賞したからだ。サミュエル・L・ジャクソンに抱きついた瞬間はすでにアイコニック、とすら言える。



スパイクはそのスピーチで感動的に語った。
「今日を表す言葉、それは”皮肉”だ。
今日は24日、そして月は2月。それは偶然にも1年で一番短い月にあたり、さらに偶然にも”黒人歴史”月間でもある。
この年2019年、そして彼女の年1619年。歴史。その物語。
1619年から2019年。400年が経過している。

400年前に、僕らの祖先は母なるアフリカから奪われ、ヴァージニア州ジェームスタウンに連れて来られて、奴隷となった。僕らの祖先は、朝はまだ真っ暗で何も見えない時間から、夜真っ暗で何も見えなくなるまで、この土地で働いた。僕の祖母は100歳まで生きたが、祖母の母は奴隷であったにも関わらず、彼女はスペルマン大学を卒業した。そして私の祖母は、50年間社会保障給付金を貯金して、彼女の孫を――彼女は僕をスパイーキープーと呼んでいた――モアハウス大学と、ニューヨーク大学大学院映画科に行かせてくれた。NYUだ! (*ニューヨーク大学の映画科は有名で、優秀だが学費が超高い)

今夜、この世界に先立ち、僕らの祖先が、アメリカ先住民の大虐殺もともないこの国を今ある形に築き上げてくれたことを讃えたい。僕らは誰もが祖先と繋がっている。そして僕らはこれから、愛と英知を奪回するんだ。そして僕らの人間性も奪回するんだ。奪回できたらそれは、きっとパワフルな瞬間となるはずなんだ。

2020年が間もなくやってくる。だからここでみんなの力を結集しよう。そして、みんなで正しい歴史を作ろう。愛か嫌悪かの間で、モラル的に正しい選択をしよう。レッツ・『ドゥ・ザ・ライト・シング』!(=正しいことをしよう)って言わずにいられないのは分かってもらえたよね(笑)」

2020年とはもちろん大統領選について言っている。

スパイク・リーがこの時に、プリンスのオマージュでパープルのスーツを着ていたのはすぐに分かったと思うが、プリンスのネックレスもしていた。

さらに、「今夜ブラザーのプリンスが、”It's Gonna Be a Beautiful Night”を歌ってくれているのが僕には分かる」ともコメントしていた。この映画で使われている当時未発表だったプリンスの音源との運命的な出会いについてかつて彼が語っていた。
また、プリンスが歌う“Mary Don’t You Weep”は、『ブラック・クランズマン』の終盤に使われている。
https://rockinon.com/blog/nakamura/179520

また、『ドゥ・ザ・ライト・シング』へのオマージュで、"LOVE"(愛)と"HATE"(嫌悪)の指輪もしていた。さらにカスタムメイドのエアジョーダン3を履いていた。

『ドゥ・ザ・ライト・シング』が公開された時、実は私はブルックリンに住んでいて、しかもNYUに通っていたのだが、だから、あの時街中で革命が起きた、とでも言わんばかりの盛り上がりだったのが忘れられない。オスカーでは作品賞にもノミネートされなかったので当時大批判された。だから、彼にとっては感慨もひとしおだったわけだ。

というわけで、彼のスピーチは、式の中でもハイライトと言える感動的な場面だったのだが、それを見て、世界で唯一?怒りを爆発させた人がいる。大統領だ。これから大事な米朝会談に出かける前日で、それ以外の問題も山積み、セクハラで新たなに訴えらえているという最も忙しいのではと思える時に、わざわざこのスピーチを攻撃したのだ。どこにも大統領の名前は出てこないし、直接批判する箇所もないのに。巷のトークショーでは、「HATEという言葉が出ると自動的に自分について語られていると思うのでは?」とジョークにされていた。

大統領のツイートは、
「スパイク・リーは、スピーチのメモをもっとしっかりと読めれば良かったのに、またはメモなしでスピーチできればもっと良かったのに。とりわけ、大統領に対して人種差別者的な攻撃をする場合は。

しかも、私は、アフリカン・アメリカンのために、刑事司法制度改革から、史上最低の失業者数、減税などにおいて、アメリカの歴代のどの大統領よりも力を尽くしているのに!」

このツイートにアメリカのメジャーメディアが即座に反発。まず、それ以上に大事なことが目の前あるだろう、ということ。しかし、目の前にある問題やこれから行われる会談など不安だらけなので、そこから国民の気をそらすために無意味な騒ぎを作っているのだ、と言っているニュースもあった。

さらに、そもそも、メモをしっかり読めないのは、自分なのでは?とジョークにもされていた。大統領はいつも、スピーチで単語を読み間違える、または読めない?ので。

エンターテイメント・ウィークリー誌にこの大統領のコメントを受けたスパイク・リーのコメントが掲載されていた。

ツイートを見たかと聞かれ、頷きため息をついたそう。そして、「そういうコメントに今更驚かない」とも。「そうやって話をすり替えるんだ。奴らは、アフリカン・アメリカンの選手たちが跪いた時も、それを反アメリカ的で、反愛国心的で、反軍隊的な行為だと話をすり替えた。誰もそんなこと言ってないのに」

彼は、それについてあれこれ考える代わりに、オスカーの翌日にはすでに次回作についての意欲を示している。「これからLA空港に行き、タイに行く」と言っている。そこで「チャドウィック・ボーズマン主演の映画、”Da 5 Blood”を撮影するんだ。『ブラック・クランズマン』はここで終わりだ。JAY-Zが言っていたように、”onto the next one"(次に)向かうよ」とインスタしていた。

スパイクは、オスカーの後にはジェイ・Zビヨンセがシャトーマーモントホテルで開催するアフターパーティに行っている。ブルックリン出身の2人を祝っている。

授賞式では、同じくブルックリン出身のバーブラ・ストライサンドが彼の映画を紹介。

NYの地元紙も彼が一面だった。

スパイクは実はオスカーではその他のことでもヘッドラインになっていた。というのも、作品賞が『グリーンブック』になったことに不満だったようなのだ。「MSG(マジソンスクエアガーデン)のコートサイドにいて、審判が誤審したのを目撃したようだった。今年は他に良い作品がたくさんあったのに!」と。
https://www.cnn.com/videos/media/2019/02/25/spike-lee-green-book-win-reaction-sot-es-vpx.cnn

発表された瞬間、彼は誰から見ても怒りをあらわにしたそうで、下手したら、カニエ・ウェストのようにステージに上がる勢いだったそう。

さらに記者会見では、「誰かが誰かを車に乗せて運転していると俺は負けるんだ。今回の場合は、座席が変わっていたけどね」とシャンパンを飲んで笑いながら語っている。『ドライビングMissデイジー』のことを言っているのだ。『ドゥ・ザ・ライト・シング』がオスカーにノミネートされた年に、作品賞を受賞したのは『ドライビングMissデイジー』で、スパイクはその後もずっとその作品を批判していた。

スパイクと言えば、私は、2002年に『25時』の時、彼にインタビューしたことがあるが、その時に「どんなに自分が頑張っていても、ハリウッド内で決定権を持つのが白人である限り何も変わらない」と言っていたのが忘れらない。本当にそれと日々戦っている人の言葉であり、だからこそこうやって30年経ってオスカーを手にする重みは人一番だったはずだ。今年のオスカーでは、7部門で黒人が受賞すると史上最高の記録となった。それは祝すべきことではあるが、黒人監督の映画が作品賞を獲ったのは、91回の歴史で、『それでも夜は明ける』と、『ムーンライト』のたった2回しかない。グラミー賞と同じで、まだまだ先は長いように思う。

日本ではこれから公開される『ブラック・クランズマン』。実話を元にしたこの作品は1979年のコロラド州を舞台にしているが、映画の終わりで2017年のバージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者による集会の映像に繋がる。彼らの行動が暴力的になったところで、大統領が「問題は両者にあるの」と言った映像が挿入される。アメリカでは、大統領が白人至上主義者を否定しないかったということで大問題となった発言だ。

スパイクは、そのシーンについてNYタイムズのインタビューに答えて、「(映画で描かれている)クラン(KKK)と、今起きていることを結びつけなくてはいけないと思った」と語っている。デビット・デューク(KKKの元最高幹部)と、エージェント・オレンジ(スパイクが付けた大統領の呼び名)を結びつけなくてはいけないと思ったんだ」。それがこの映画が1970年代を舞台にしながらも、2019年の我々にも響く理由だ。
https://www.nytimes.com/2018/05/15/movies/spike-lee-blackkklansman-trump.html?module=inline

日本公開は3月22日。
https://youtu.be/f5GtogjbzTg
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