スフィアン・スティーヴンス、5年ぶりの待望の新作『The Ascension』が9月25日に発表となった。
こちら。
https://sufjanstevens.ffm.to/theascension
歌詞と彼が描いたブックレットもダウンロードできる。
https://asthmatickitty.com/akr150_booklet.pdf
MVも現時点で3本公開されている。
1) “Sugar”
有名なAlvin Ailey所属のダンサーなどが出演している。
2) “Video Game”
このMVには、14歳のJalaiah Harmonというアトランタ出身の女の子が出演しているのがポイント。彼女はRenegadeというTikTokで世界的に大ヒットした、オバマ元大統領まで知っているダンスのクリエイターで、そのおかげで大スターとなった。
3) “America”
これはMVというか、スフィアンが撮影したアメリカ国旗がたなびく映像。独立記念日の前日の7月3日に、“America”というタイトルの曲をアルバムのファースト・シングルとして発表したのがポイント。
このアルバムのポイントについて個人的に思うところを書いておくと、これまで彼は『Michigan』、『Illinois』、そして前作の『Carrie & Lowell』は事実上『Oregon』と言えたのだが、アメリカ各地の名所や歴史を歌詞に織り交ぜながら、アメリカの夢とその崩壊を、彼の手でファンタジーにしてそこから逃避したり、または夢を再構築したりしているようなところがあった。それは彼個人の思い出とも関係していると思うのだが、しかしこの作品から最初に発表されたシングルのタイトルが“America”で、それを聴くと彼のアメリカとその理想の崩壊への見方がこれまでとは大きく変わったのが分かる。何しろその幻想は消えて、「アメリカにしたことを、僕にはしないでくれ」とかなりストレートに繰り返し歌っているから。
以下、スフィアンが語ったそれぞれの曲に対する思いを集めて紹介する。引用元を記載していないものはプレスリリースから。
●アルバム『The Ascension』のテーマについて
「自分個人の変貌を求めることについて、そして、自分の周りのシステムに賛同するふりをするのを拒否することについて」
「僕は変わったんだ。疲れたんだ。世界が嫌になった。幻滅した。意地悪になったんだ。そして今回生まれて初めて『The Ascension』で、自分が世界に対してどう思うのかに正直になったんだ」(The Atlantic Magazine)
「このアルバムでは、これまで通りのやり方ではもうできないんだ。だから再生の道に進まないといけない。一度死んで、再生しないといけないということを言っている。このアルバムで、自分が何を感じて何を欲しがっているのかを再構築したかった。意識の完全な浄化だと思う」
「(50州のプロジェクトについて)アメリカというのはもう健全なテーマではなくなったような気がする」
「僕の問題はもう個人的なものではなくなってしまった。僕の問題はグローバルなものになったんだと思う」(MOJO)
ちなみにスフィアンは、前作でツアーしている間に、スタジオのあったビルがリノベーションすることになり、このアルバムをほぼ1人で作っている。
さらに長年住んでいたブルックリンから、ニューヨーク郊外の山の中に引っ越し、自分で野菜などを作っている。
「このアルバムはニューヨークを去るプロセスを描いたものなんだ。そして自然に囲まれた生活をしようとしている。それ自体がありきたりすぎるわけだけど」
●“America”について
「“America”とアルバム『The Ascension』は、我々の周りで崩壊する世界を告発することであり、そこから脱出するロードマップだ。このシングルは、アメリカのカルチャーの病に反対するプロテストソングなんだ」
この曲は6年前、前作『Carrie & Lowell』の際に書かれたもので、「書いた時は、唖然とした。悪意があって、『Carrie & Lowell』で書いていた曲とはかけ離れていたから。だからお蔵入りにしたんだ。だけど数年前にデモテープを掘り起こしていたら、ここで予知されていたことに驚いた。怒りがあるからといって、軽薄だからといって、無視できないと思った。この曲は、書いた当時は自分でも気付かなかったけど、間違いなく予言であり真実を指摘している。それに気付いたから、この次に何をすべきなのかという明確な道が見えた」とも言っている。
スフィアンは、この曲をレコーディングし直して、それから2年間かけて、このアルバムをコンピューターとドラム・マシーンとシンセサイザーで、ほとんど1人で作った。
このシングル“America”が全体のテーマのひな形となった。
●“Video Game”について
「人の価値が、“いいね”の数やフォロワーやビューワー数で評価されるという社会に僕らが生きているというのは不運だと思う。あまりに多くの人達が間違った理由で注目を浴びようとしている。僕らは賞賛や報酬がなくても最高の仕事をするべきだと思う。僕にとってこの曲の大事なことは、自分の価値は絶対に人からの承認によって決まるものではないということ。だから自分らしくあるべきなんだ。リアルであり続け、前進し続けるべきなんだ。完全に純粋に愛と喜びからすべてをやるべきなんだ。そして自分の最高の力を出す。(MVに出演してくれた)Jalaiahがそれを象徴していると思ったから、完全に彼女にインスパイアされたんだ。だから、Jalaiahが、ダンス・ビデオのスターになりたくないと思っているというダンス・ビデオのスターになったら最高だと思った。彼女が出演してくれて本当に光栄に思ってる」(DIY)
●“Goodbye to All That”について
「このタイトルは、『Thank U, Next!』みたいな、ああ楽しかった。それじゃ!というような、または『Keep Calm and Carry On!』みたいに聞こえるものだと思う。だけど今の社会ではそういうフレーズがあまりに激増していて、肩をすくめて、意味がないと思ってしまう。実際は僕には今そういう決まり文句が必要で、一体どこに次行けばいいのか、自分の仕事を健全でサステイナブルな方法でどうやってやればいいのか教えて欲しいと切羽詰まった状況にある」(The Quietus)
ちなみにこのタイトルは、Joan DidionがNYから去ることを書いた有名なエッセーのタイトルとも同じだ。
●“Sugar”について
「この曲は究極的には、善良さや純粋さ(真の暮らし)への願望なんだ。表面的には決まり文句の繰り返しだけど、メッセージには緊急性があり、今こそが、良いもの、純粋なもの、価値のあるものを集めて、自分のものにする時なんだ。そしてそれを人々と分かち合うべきなんだ、と言っている。自分の魂に栄養を与えて、周りの人達に新しい人生を語るんだ。お互いに愛や尊敬、犠牲を与えあうべきなんだ。古い習慣ややり方、考え方は放棄しろと言っている。いつものやり方は止めて、世界に新しい命を吹き込むべきなんだ。それは僕ら次第なんだ、と」
偶然にも同じ週に発表されたフリート・フォクシーズの新作とは真逆と言えるサウンドのアルバムになったのではないかと思う。中々前に進めない様な、ずっしりした、より聴き込み噛み砕くタイプの作品となった理由、彼の発言からも分かるのではないかと思う。