Sheryl Crow@ROSELAND


『100マイルズ・フロム・メンフィス』という新作を発売したばかりのシェリル・クロウ。アメリカの公共放送PBSの番組収録用の招待客オンリー特別ライブのチケットをいただき観て来た。
http://www.universal-music.co.jp/u-pop/artist/sheryl/

「前作は、”ファック・ブッシュ!”という作品だった。あ、これは放送では使えないわね(笑)」とステージで語ったシェリル・クロウだが、ロック色を濃くし、政治的メッセージが託された前作から、今作は、キース・リチャーズも参加し、R&B、ソウル色の強い打って変わった作品に。だから、この日のステージにも、ホーン・セクション、コーラス隊、パーカッションなど、総勢10人ほどのバンドを従え、よりファンキーかつポジティブなエネルギーの溢れる内容に。彼女は、ギターを抱えることはほとんどなくて、ボーカルに徹するか、キーボードを弾いて、この大所帯のバンドを率いていた。

「私はメンフィスから100マイルの場所で育ったんだけど、そこはすごくソウルに溢れる場所だったの」とこの作品のインスピレーションについて語っていたが、作品には、メンフィス出身のジェスティン・ティンバーレイクも参加。彼との共演曲は、テレンス・トレント・ダービーの”Sign
Your Name"だが、TTDは、シェリルが「若い時最も影響を受けたアーティスト」なのだそう。

シングルの”サマー・デイ”は、初めて聴いた瞬間すでに知っていたような気になるキャッチーな曲。この日、シェリルは、オレンジ色の超ミニ・ワンピースを、サラ・ジェシカ・パーカーばりに着こなしていたけど、きっとこの”サマー・デイ”の気分が、この日のバイブの象徴だったのだと思う。

しかし、途中、ダライ・ラマに会った時の思い出を語っていて、「このカオスの世の中で、子どもふたりをどのように育てたらいいのでしょうか?」と訊いたと言う。ダライ・ラマには「子ども達には常にピースフルな気持ちで接しなさい。そうすれば、きっと子ども達はそれを必ず受け継いでくれるはずだから」と言われたそうだ。

一人目の養子を育てるようになり社会への反抗をより直接的に表わした作品から、反動とも思える今作の変貌というのは、だから突然、明るいアルバムを作ってみた、というものではなくて、恐らくそういう怒りや不安は抱えたまま、ふたり目の養子をもらったことで、より腹を括り、それをなんとかポジティブなエネルギーに変えなくては、と思っての結果だったのかもしれない。つまり、より強くなって、社会に立ち向かったアルバムとも言えるような気がする。

アルバムにもボーナスとして収録されている、ジャクソン5のカバー、”I Want You Back"が最後に演奏されたのだが、それが本当に素晴らしかった。
中村明美の「ニューヨーク通信」の最新記事