キング・クルール、ニューアルバム『Space Heavy』で新章開始! ―― 恐るべき神童から、UKインディ真の先導者へ

キング・クルール、ニューアルバム『Space Heavy』で新章開始! ―― 恐るべき神童から、UKインディ真の先導者へ - rockin'on 2023年6月号 中面rockin'on 2023年6月号 中面

キング・クルールが傑作デビューアルバム『6 Feet Beneath The Moon』と共にセンセーショナルな登場を果たしてから、早10年が経とうとしている。とは言え、アーチー・マーシャルは、今年で未だ29歳。彼は早熟な才能でインディリスナーを圧倒したアンファン・テリブルであり、ブラック・ミディやスクイッドetc.多くのフォロワーを生み出しつつも、シーンからは常に距離を置いた、孤高の天才でもあった。

そんな彼の3年ぶりのニューアルバム『Space Heavy』は、10年かけて積み重ねてきたテクニックや意匠と、未だ飼い慣らせない本能、ハプニングアート的なそれが錯綜する、極めてアーチーらしい傑作に仕上がっている。

冒頭の2曲(“Flimsier”、“Pink Shell”)こそ前作『Man Alive!』のドライな質感を受け継ぐ推進力に満ちたポストパンクだが、以降のナンバーは行き止まりや逆走のトラップに嵌って前後左右の感覚を失っていくようなアバンギャルドが拡がっている。かっちりメトロノミックなドラムの上で気まぐれに放たれる咆哮や、思いがけずリリカルなフレージングが、徐々にピッチを狂わせてニヒリズムへと転落するアコギ、迫り来る未来への不安を象徴するオーケストラルなフィードバックの只中で、過去の悔恨にむせび泣くようなサックス……と、本作で特徴的なのは1曲の中で相反したベクトル、矛盾した感情がせめぎ合っていることだろう。

プレスリリースによると『Space Heavy』は2020年から2022年にかけて、ロンドンとリバプールの2都市を行き来しながら制作され、アーチーはその過程で「間の空間(The Space Between)」というテーマに魅了されたと語っている。本作の相反性や矛盾は、その宙ぶらりんな空間に相応しいサウンドということなのかもしれない。

先行シングルの“Seaforth”も素晴らしい。彼が16歳、Zoo Kid時代に書いた“Out Getting Ribs”を彷彿させる柔らかなテクスチャーに原点回帰を見出しつつも、遥かに繊細で複雑な音の編み込みからは、29歳のキング・クルールの肖像がくっきり浮かび上がってくる(ちなみに同曲のクレジットには彼の4歳の娘マリナの名前も)。次号と2号連続でさらに迫ります。 (粉川しの)



キング・クルールの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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