今年も多彩なジャンルのアーティストが集い、音楽ファンの熱い視線を集めるサマーソニック2025。その見どころや、サマソニが目指す未来について、クリエイティブマン代表の清水直樹さんに話を訊きました。(インタビュアー:粉川しの)
●まずは、今年のブッキングの出発点から伺えますか。
「最初に考えたのは、フェスで皆が絶対に観たいアーティストですよね。ビリー・アイリッシュに来てほしいという声もありましたし、昨年から動いていたトラヴィス・スコットもそうです。今年で言ったら、サブリナ・カーペンターあたりもそうだったと思います。そうしたアーティストと最初の段階で交渉していたんです。ただ、様々な理由で全てダメだった。タイミングが合わない、自分のツアーを優先にしたいとか。サブリナに関してはプロダクションが大きすぎるから、今はフェスでは無理、という話だったり。金額の問題も大きかった。あと、どうしてもヒップホップをやりたいというのがあって、トラヴィス以外にも、実はドレイク、そしてエミネムとは話したんですよ」
●ブッキング的には超高難易度な。
「そう。その中で最もやる気になってくれたのは、実はエミネムなんです。エミネム自身もそろそろ日本に行きたいムードはあるから、ベストオファーを用意してくれたら投げかけるよ、とマネジメントも言ってくれて。ただ、やはり金額が足りなかった。今はだいたい、こちらの予算の1.5倍くらいは必要になる。それを1ドル150円で換算すると、どうしてもハードルが高いんです。もう、フェスでは無理だなと。だから単独でいいオファーができる場合にまた考える、ということで今回は流れてしまったというところです」
●ギャラが1.5倍くらい、という感覚は全体的に言えることですか?
「そう。そこは共通だね。恐ろしいですよ(笑)。だからエミネムを呼びたいと思ったら、フェスのバジェットのほぼ80%を使うくらいのギャラで、エミネム・フェスになっちゃう。今のサマソニの在り方としてはできないなと。そういう感覚で諦めたアーティストは山ほどいるんです。で、12月くらいになって、僕も焦り出すので、思考を変えないといけないなと。じゃあ、こうした厳しい状況でどんなアーティストが助けてくれるんだろう?ということを考えた時に、今までサマソニが好きで何度も出ているアーティスト、でもヘッドライナーではなくて、セカンドや、マウンテンステージのトリでやってきてくれたアーティストじゃないかと。それで名前が挙がったのが、フォール・アウト・ボーイとアヴリル・ラヴィーンだったんです」
●フォール・アウト・ボーイは本当に感慨深いです。例えばThe 1975は約10年かけてヘッドライナーに辿り着きましたけど、FOBは約20年かけてのヘッドライナーという。
「そうなんだよね。彼らの場合はその間にずっとヒット曲を出し続けて、トップバンドのポジションをキープしてきたわけで、これまで何がヘッドライナーとして足りなかったのか?と言えば、タイミングだったり、僕らのあと一押しだったりしたんじゃないかと」
●バンド側のリアクションは?
「最初は『ちょっとタイミング的に早くない?』って感じだったんですけど、『ヘッドライナーだ』と伝えたら『……なぬっ?!』みたいな(笑)」
●(笑)。
「これまでやりたかったけどできなかったヘッドライナーが、逆オファーで来たというところで、『よし、やろう!』というモードになってくれて。なので、FOBの日はロック系を中心に組んでいくことになりました」
●そして、もう一組のヘッドライナーは……。
「当初、アヴリルとも話をして、向こうも真剣に考えてくれたんだけれども、最終的には今年は難しいという話になったんです。でも僕としてはもうそういう気分でいたから、もう一組のヘッドライナーは女性アーティストでいこうと。それで、アリシア・キーズになりました。アリシアは08年のサマソニで、コールドプレイの前に凄いステージをやって以来ですね。うちでは横浜アリーナでの単独(13年)もやったけど、あれも即完で。今、僕もアリシアが観たかったし、女性アーティストの象徴としてもまさにハマる人で、ストーリーが作れると思ったんです」
●アリシアの前回のサマソニは伝説ですよね。
「コールドプレイのクリスとの共演という、サマソニでああいう伝説的なシーンはその後いくつか生まれたけれど、恐らくアリシアとクリスが初めてだったんじゃないかな。あれほどの大物アーティストが、日本のフェスでコラボするというのは。こうしてヘッドライナーが決まって、アリシアの日はR&B、ポップス系のアーティストを揃えていくという、色分けもはっきり見えてきたんです。アリシアはね、もうとにかく皆に一緒に歌ってほしい。本当にたくさんのヒット曲、名曲があるし、“イフ・アイ・エイント・ガット・ユー”とか、予習してきてねって(笑)。あの曲の歌詞は本当に素晴らしいし、今はTikTokでもバズってるんだよね。僕らが思う以上に広がっているという」
●では改めて、FOBの日から詳しく教えてください。
「プロディジーはこの日です。それとヤングブラッド、ビーバドゥービー、ブロック・パーティーもそうですね。ポーター・ロビンソン、ドミ&JD・ベック、あとホット・ミルクも決まりました。ワリスもこの日ですね」
●SNSのリアクションを見ていると、プロディジーやブロック・パーティーは凄く盛り上がっていました。
「どちらも皆に刺さったよね(笑)。やっぱり、サマソニでの歴史があるバンドだからだと思います。サマソニのファンの人たちが喜んで発言してくれているなと。ただ、最近で言うと、一周回った感じもあるんですよね」
●プロディジーもブロック・パーティーも、海外では再評価というか、新しいオーディエンスがついていて。
「そう。この前のグリーン・デイなんかまさにそうだったけれど、ライブに二世代のお客さんを呼べるアーティストが増えているんです。これまでは世代が分かれてやりづらかった部分が、今は両世代が楽しんでくれるようになった。フェスとしてもありがたい変化です」
●プロディジーはマウンテンですか?
「そうだね。彼らは絶対にステージが暗くないとダメだから(笑)」
●(笑)。
「そう考えるとインドアかヘッドライナーしかない。ザ・ヴァーヴがトリだった08年には、クロージングアクトとしてヴァーヴの後に出てもらったけど、あれも暗さを優先した結果です(笑)。だから今回もインドアになると思います」
●プロディジーのような90年代組が、もはやレジェンド枠に該当するアクトになりましたよね。
「そう、サマソニのオーディエンスは10代〜30代が6割、7割を占めるので、彼らにとって90年代はもうレジェンドの時代だよね」
●ビーバドゥービー、ワリスとDirty Hit組も、サマソニらしいアーティストです。
「そうですね。The 1975からの流れもあって、Dirty Hitのアーティストはうちと凄く相性がいい。ビーバドゥービーは僕らとしても推していて、サマソニで育って大きくなってほしいアーティストです。ヤングブラッドもそう。去年のマネスキンやブリング・ミー・ザ・ホライズンが象徴的で、僕らはその次のスターを育てたい。だから彼にはBMTHのフェスにも出てもらったという経緯があるんです。ヤングブラッドはアニメとのタイアップまでつけて盛り上げようとしていて、そうやって日本発でバンドが大きくなって、それを再び海外に還元できるような状況が、また最近は可能になってきたと思ったのが、昨年のマネスキンなんですよ。サマソニでもそういう環境をどんどん作っていきたいんです。あと、この日にポーター・ロビンソンが入っているのが意外とカギです。ポーターはただのDJではなくて、ロックもオタク的なものも好きで、いろんなカルチャーにアクセスできるアーティストですよね。だから彼はずっとサマソニに出たいと言ってくれていて」
●ポーター自身も、サマソニのマルチカルチャーなラインナップを理解しているわけですね。
「そうです。あと大阪オンリーでゲサフェルスタインが出るので、ロックの日にポーターと彼がエレクトロニック系のアクトとして出演する、というのがポイントでもあります。ポーターはバンドで来るしね。そしていち早く発表したOfficial髭男dismもこの日です。彼らはFOBの大ファンで、共にスタジアムを盛り上げてくれると思います」
●ガッツリ固まりましたね。
「そう。まずはしっかりと、皆がサマソニで観たいアーティストを固めました。今のサマソニは洋楽だけではなく、邦楽からK-POP、アイドルまで様々なカルチャーを楽しんでもらえる場になっていて、その辺はこの後に発表になってきます。でもまずは、サマソニの本道と呼べるアーティストを最初に発表したかったんです。まずは、そのアーティストのファンにチケットを買ってもらう。そういう二段階で考えているんです」
●では、アリシアの日について教えてください。
「まずはやっぱり、カミラ・カべロとJ.バルヴィンというね」
●スーパースターが揃いました。
「カミラはここ何年もずっと日本でライブをやりたがっていて、やるならばフェスからだろうということでオファーを受けてくれました。J.バルヴィンもそう。彼は単純に日本が大好きだったりもして。家に日本風庭園を作ってしまうくらい(笑)。海外でカミラとJ.バルヴィンが出るとなると物凄いギャラになるわけですけど、今回、彼らはギャラを抑えてでも日本に来たい、サマソニに出たいと言ってくれたんです」
●アリシア、カミラ、J.バルヴィンと揃うと壮観で。
「今のポップシーンの最前線ですよね。FOBやプロディジーとはまた別の層に訴求するサマソニというか。で、昔はその二つを敢えて交ぜて、両日共来てください、ということをやっていたんだけれど、今は日によってはっきりコンセプトを分けるようにしました。お客さんのニーズもそうだしね。観たいアクトが2日間に別れたら、2日来るか、逆に1日も行かないという選択肢もあるわけですから。であれば、観たいものをできるだけ一緒の日にして、1日でも絶対に行こうと思えるようにしたほうが、誰にとっても幸せですよね」
●ちなみにaespaもこの日で、K-POPを集める感じですか?
「そう、aespaに、ちゃんみな(大阪のみ)もこの日ですね」
●ガールズデーですね。
「そうなんです。ガールインミュージックというコンセプトは、自分の中ではっきりしていました。ヘッドライナーからメインの3組は女性アーティストでいこうと。たぶん、サマソニ史上初めてだと思います。だからそうだね、今年は東京初日がロックデー、2日目が女性デーだという言い方もできますね」
●しかし改めて、J.バルヴィンが観られるのは凄いことですよね。近年のラテンブームを象徴するポップスターで。
「ね。コーチェラで言ったら今やヘッドライナーの前くらいで出ている人ですから。ラテンと言えば、今年もビーチステージはコンセプトステージになる予定で、1日目は2年前に星野源さんがキュレーションしたように、今年もあるアーティストにキュレーションをお願いしています。イメージとしては、90sのR&B、ヒップホップ的な感じになります。これも最近のトレンドの一つで。で、2日目のビーチを、できればラテンステージにしようと、今考えているんです。ただこれは凄く……ギャップがあるじゃないですか。世界的には今やラテンとカントリーが爆発的に盛り上がっているわけだけど、日本との温度差はどうしてもある。でも、やっぱりこの日はJ.バルヴィンとカミラというラテンを代表するスターがいるから、そのムーブメントを肌で感じてほしいなって」
●意義深いことですよね。
「うん、だから今めちゃくちゃ頑張っています。J.バルヴィンにしても、他のラテンアーティストにしても、サマソニでラテンのシーンを見せる意味を理解してくれていて、自分でスポンサードしようか、とまで言ってくれる人もいるんです」
●個人的にインフィニティ・ソングも楽しみなんですけど。
「彼らも2日目です。不思議なバンドだよね。古い例えだけど、フィフス・ディメンションみたいな(笑)。決まりきったジャンルやシーンとは別のところから出てきた人たちで。僕も注目しているアーティストです。イライジャ・ウッズもポップということで2日目ですね。本当に今年ははっきり傾向の分かれる2日間になります。あと、未だ発表はできていない段階ですけど、どちらの日もこれから追加で2、3組は海外の面白いアーティストが入ってきそうです。K-POPの比率は去年より少し下がるかな。で、洋楽と邦楽がメインのステージでは大体同じくらいの比率になるという。あと今年もサマソニ・バンコクがありますし、アジアのアーティストもエントリーしてきます。ソニックマニアはプロディジーと、ゲサフェルスタインを中心に今進めているところです」
●2月にリンキン・パークとグリーン・デイが来日しましたが、この2組はサマソニを象徴するヘッドライナーだったバンドですよね。そうしたビッグネームが、フェスよりもソロツアーに比重を置きつつある昨今のトレンド下で、今後のサマソニの、フェスの展望をどのようにお考えですか?
「リンキンだって、今回はヘッドライナーをやるには一番いいタイミングだったわけですよね。でも、グローバルで大きいツアーを組まれている状況では、呼ぶのが難しかった。それでも、例えばグリーン・デイにしても、来年はサマソニ25周年だから出てほしい、とオファーを出せば、彼らもちゃんと考えてくれると思います。実際、この前来た時にそれは伝えています。僕らクリエイティブマンは、それだけの関係性をアーティストやマネジメントと築いてきたんです。確かに昔よりはフェスのブッキングが難しくなっているけれども、今年は僕らもフジロックも、そうした現状を踏まえた上で、それぞれにベストなブッキングができたんじゃないかと思います」
※取材は2025/3/6に実施されました。
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