ひと足先に夏の訪れを感じるような、インヘイラーの爽快にしてエピックな新境地を体現した素晴らしい単独来日公演だった。前回は2023年のサマーソニックだったから約2年ぶりの来日であり、その間には彼らがポップに大胆に移行した『オープン・ワイド』のリリースがあった。同作で2作連続全英2位、本国アイルランドでは3作連続1位を獲得し、人気ぶりをキープしつつも、海外ファンの間では彼らの変化に対する戸惑いの声も少なくなかったわけだが、インヘイラーの最新ツアーはその戸惑いを解消して余りあるツアーとなっている。
ライブのオープニングは『オープン・ワイド』の中でも新旧モードがミックスされた曲である“オープン・ワイド”で、ステディな4つ打ちに乗せて観客を一気に自分たちのほうへと引き寄せていく。その握力からは何よりもロックバンドとしての彼らの成長を感じた。実際、今回のライブで特筆すべきは、セットの中核をなしていた『オープン・ワイド』の曲は、ねちっこくタフなビートやラウドギターを駆使して、音源以上にロックに仕立てられていた一方で、例えばデビューアルバム『イット・ウォント・オールウェイズ・ビー・ライク・ディス』のナンバーは、彼らが最新作でキッド・ハープーンと作り出したダイナミクスを駆使し、抜け感のあるポップに仕立てるという、両方向から歩み寄った絶妙のライブバージョンになっていたことだろう。
シングル曲では無いにも拘らず、『オープン・ワイド』屈指の人気曲に育った“ビリー(イエー・イエー・イエー)”から鉄板アンセムの“イット・ウォント・オールウェイズ・ビー・ライク・ディス”、そして最新作を象徴する“ユア・ハウス”へと、今のインヘイラーの最強の3曲で駆け抜けたアンコールも圧巻だった。そもそもインヘイラーはアークティック・モンキーズとハリー・スタイルズからそれぞれ影響を受け、「オルタナティブポップ」としてのギターロックを標榜してきた確信犯だ。彼らが最新作でたどり着いた境地は、何年も前から開拓していた道の先に待っていたものなのだ。(粉川しの)
インヘイラーの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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