そこに表れていたのは、2020年代のポップスターとは何かという問いへの、きわめて明確な答えだった。Spotifyで10億回再生を突破した楽曲群を軸に組まれたこの日のステージは、ヒット曲のパフォーマンスにとどまらず、バッド・バニーという存在の核心——プエルトリコの文化を世界水準のポップへと押し上げた力——を凝縮した表現だったのだ。
開演直後、“EoO”から“Me Porto Bonito”、“No Me Conoce”、“Efecto”へと畳みかける流れは、レゲトンがいかに巨大化したかを示すと同時に、それが依然として身体に響く音楽であることを思い出させるパフォーマンス。
跳ねる重低音が会場をクラブフロアへ変え、観客の合唱は言語の壁を軽々と飛び越える。モニターの向こうの“世界”ではなく、目の前のオーディエンスに向けて歌っていたのも印象的だ。
《音楽に言語は関係ない》《愛にも言語は関係ない》というMC、そして“Yonaguni”で響いた日本語のフレーズは、その象徴的な瞬間だった。さらに後半、生演奏のセクションに入ると、本公演の輪郭がいっそう明確に。“CALLAÍTA”やドレイクとの曲“MÍA”をサルサへと開き、“BAILE INoLVIDABLE”や“NUEVAYoL”へ接続していく展開は、レゲトンの覇者が過去のラテン音楽を参照するというのはもちろんのこと、自身を育てたプエルトリコの音楽的遺産を現在進行形のポップとしても再提示していたと思う。グローバル化とは中心に同化することではなく、ローカルの誇りを携えたまま中心を書き換えることなのだと、このライブは明確に告げていたのだ。
ラストの“DtMF”で彼は、過去に囚われ続けるより今この瞬間を生きようと語り、観客にスマートフォンをしまうよう促した。10億再生のメガヒットスターが最後に求めたのは、記録より体験だったのだ。
彼の初来日は、英語がポップの中心だった時代が過ぎ、ローカルな言語と文化を保ったまま世界の中心に立てる時代が到来したことを、日本のオーディエンスに肌で実感させる出来事だった。 (つやちゃん)
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