日経ライブレポート 「クロスビー、スティルス&ナッシュ」

1969年に発表されたデビュー・アルバム『クロスビー、スティルス&ナッシュ』、ニール・ヤングを加えてCSN&Yとして70年に発表した『デジャ・ヴ』。この2枚のアルバムの巨大さを改めて思い知るライヴだった。
コンサートは2部構成で24曲演奏された。そのうち前記2枚のアルバムから10曲。ほぼ半分はその2枚の曲で占められ、ハイライトとなったのも2枚のアルバムの曲たちだった。半世紀近く前の作品である。しかし、どの曲もいまだに輝きを失っていないばかりか、2015年だからこそ感じられる時代を超える普遍性の発見さえあった。

最近の若い世代によるネオ・フォークというスタイルにも彼らは強い影響を与えている。まさに2枚のアルバムは奇跡が生み出したものといえる。それは彼ら自身をも超えたものであった。

ニール・ヤングはバンドから離れても新しいキャリアで評価も人気も獲得していった。しかしクロスビー、スティルス&ナッシュの3人は69年、70年の栄光を超えることができなかった。本人たちにとっては、複雑な心境の中での半世紀であったと思う。

しかしある時点で彼らは自分たちの役割を自覚した。そこからは奇跡の2枚のアルバムの伝道者としての仕事に全力を投じている。それが単なる懐メロ歌手としての役割になっていないのは、今回のライヴでも証明された。時代を超えた奇跡の作品を作った者としての務めとは何か、それを自覚する知性が彼らにはあったのだ。バッファロー・スプリングフィールドの曲も含め、たくさんの時代を超え、今も新しい名曲を聴くことができた。

5日、東京国際フォーラムホールA。
(2015年3月18日 日本経済新聞夕刊掲載)
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