日経ライブレポート「アヴィーチー」

巨大なQVCマリンフィールドを埋めつくした3万人の大観衆。それを迎え撃つのはたった1人のDJ。歌うわけでも楽器を演奏するわけでもない、この1人のDJが大観衆を熱狂させ、躍らせ、合唱させる光景はまさに21世紀のポップ・ミュージックを象徴するものだった。

アヴィーチーはスウェーデンのストックホルム出身のDJ。人気、評価ともEDMシーンのトップに君臨する存在といえるだろう。実は、彼は今回のツアーでライヴから引退することを宣言している。音楽活動は続けるが、ライヴはやらなくなるようだ。ファンが待ち望んだ初来日のステージが、まさに最初で最後のパフォーマンスになってしまった。それだけにファンのこのステージにかける期待は大きかった。ラスト・ステージを意識してか、演奏された曲は彼のこれまでのキャリアを網羅するものでファンとしては大満足だったのではないか。特に後半のヒット曲の連打による盛りあがりは凄かった。

客席から起きる大合唱を聴きながら思ったのは、アヴィーチーの最大の武器は歌のメロディーなのではということだ。ダンス・ミュージックなのでリズムやアレンジが中心のように思われるが、今のEDMの人気を支えているのはメロディーの分かりやすさだと思う。しかも米国や英国のアーティストにない、どこか懐かしく切ないヨーロッパ型のメロディーだ。人気DJの多くが英米以外の国出身なのは単なる偶然ではないと思う。ユーロビートの大きな流れを汲む4つ打ちのビートと分かりやすいメロディー、アバと同じ国から現れたスターには伝統の継承があると感じたライヴだった。

6月5日、QVCマリンフィールド。

(2016年6月24日 日本経済新聞夕刊掲載)
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